借金4億、派手な女遊び…そこから学んだ「諦めた先から始まる人生」

ジェーン・スー、父について大いに語る
ジェーン・スー プロフィール

たくましい父を垣間見た

―心が温まるエピソードも少なくありません。例えば、結婚前、一度は別れたお父さんとお母さんがたまたま池袋で再会する場面は劇的です。

父と母の交際は、父が母の家に転がり込んで始まりました。

母と別れてからもずっと復縁したいと思っていた父は、バッタリ出くわした母に「ああ、会いたかった! 好きなんだよ!」と思いをぶつけます。そんな父に、母はなんにも言わずに部屋の鍵を渡す。やっぱり、母は格好いい人だったな、と思います。

母との恋愛を、身振り手振りを交えて情感たっぷりに話す父を見ていると、「よくも娘の前で照れることなく、そんな風に話せるなあ」と思います。でも、聞いていて楽しかったですね。

 

―お父さんに戦争体験について初めて尋ねるくだりも印象的です。

父は昭和13年生まれなので、終戦当時は7歳。あまり記憶はないと思い込んでいたのです。ところが、じっくりと聞いてみると、沼津に疎開し、そこで空襲を受けて家を焼かれる経験をしていた。焼夷弾が降るなかを一家で逃げ惑ったそうです。

きっと、筆舌に尽くしがたい経験だと思うのですが、そんな話を語るときも、父はどこかのんびりとしているのです。そういう意味で、生きる強さ、たくましさがまるで違うのだな、と感じました。

―月に一度、父子そろってお母さんのお墓参りをして、語り合う。年老いたお父さんに寄り添うジェーンさんの眼差しは温かく、理想の父子のようにも思えます。

いやいや、そんないいものでもないんです(笑)。

両親は、私が成人するまで金銭面での苦労を感じさせることなく育ててくれました。それに対する感謝はしているし、愛情もあります。でも、心の片隅には、父の死後に自分が後悔したくないという思いもあるんです。これは私の「打算」なのかもしれませんね。

娘の私から見ても、こうも楽しそうに人生を歩んでいる人はなかなかいないので、最後の最後まで人生を味わい尽くしてほしい、それをそばで見ていたいと願っています。

―この本について、お父さんの感想は聞かれましたか?

聞くと「読んでる」と言いますけど、あの様子では全部はまだ読んでないでしょう(笑)。

この本を書いてみて一番強く感じたのは、この20年、たった二人の家族だったのに、いかにお互いをよく知らなかったのかということ。家族といえども、ただ漫然と一緒にいるだけではダメなんですよね。

今回、父がこれまでと違う顔や姿を私に見せてくれて、本当に良かったと思っています。(取材・文/窪木淳子)

『週刊現代』2018年6月2日号より