〔PHOTO〕iStock

ゲノム編集技術「クリスパー」が可能にした、危険なトレンド

アマチュア科学者がDIYキットで…

微生物から動植物まで、あらゆる生物のゲノム(DNA、遺伝子)を自在に改変するゲノム編集技術「クリスパー」。今後、農業、食品、医療、製薬など、私たちの命や暮らしに関わる様々な領域で、21世紀の産業革命を巻き起こすと見られている。

しかしながら、この驚異的なバイオ技術は、過去に類を見ない災厄を引き起こすとの懸念もある。

先週から日本でも公開されている映画『ランペイジ巨獣大乱闘』は、偶然、クリスパーを体内に取り込んだゴリラや狼、ワニなどが巨大化して大暴れする娯楽映画だ。が、一方で、こうした先端バイオ技術の乱用に対する警告という、真面目なメッセージも含んでいる。

この映画はあくまでフィクションだが、現実世界でもクリスパーについて多くの専門家が警鐘を鳴らしている。クリスパーは誰でも短期間のトレーニングで容易に使える技術なので、その乱用が私たちの生命や地球生態系を危険にさらす恐れが出てきたからだ。

 

「普通の高校生」が遺伝子操作する時代に

1986年に大阪大学の研究チームが発見した「細菌・古細菌固有の奇妙な塩基配列」を基に、米欧の科学者らが「クリスパー(CRISPR Cas9)」を発明したのは2012年(上記映画の中では1993年に発明されたことになっているが、これは事実と異なる)。

以来、この革命的な遺伝子操作技術は「肉量を大幅に増加させた牛や魚」あるいは「癌細胞を効果的に攻撃する免疫療法」など、様々な分野で目覚ましい研究成果を生み出した。その一部は、既に実用化の段階に差し掛かっている。

過去の「遺伝子組み換え技術」に比べ、クリスパーは遺伝子操作の「精度」や「スピード」「汎用性」などの点において桁違いの進化を遂げている。が、これらにも増してクリスパーの最大の長所と見られているのが、この技術の「使い易さ」だ。

1970年代に登場した遺伝子組み換え技術は、生物学や医学などを専攻する大学院生や博士研究員らが、師匠である教授の下で何年もトレーニングを積んで、漸く修得できる難しい技術だった。

これに対して21世紀の技術であるクリスパーは、その発明者の一人であるカリフォルニア大学バークレイ校のジェニファー・ダウドナ教授が「普通の高校生でも数週間でマスターできる」と太鼓判を押すほど簡単な技術だ。

〔PHOTO〕gettyimages

これにはプラスとマイナスの両側面が考えられる。

まずプラス面は、クリスパーが簡単で修得し易い技術であるが故に、遺伝子操作に関わる科学・技術者のすそ野が広がること。これによってバイオや医療、製薬などの分野で、今後、開発力の大幅な底上げが期待される。

マイナス面は、この技術がまさに「誰にでも使える」ことから生じる危険性だ。実際、米国では普通の高校生が、クリスパーを使って「酵母菌をゲノム編集して緑色に光るビールを作る」「バクテリア(細菌)をゲノム編集して、ヒト型インシュリンを生成させる」といった実験に取り組んでいる。

が、彼らアマチュア科学者が、酵母菌やバクテリアなど扱いに注意を要する微生物を適切に管理できる保証はない。遺伝子改変された微生物が人間の体内に入り込んで危害を及ぼしたり、自然界に混入して天然種と交配し、それによって生態系に悪影響を与える可能性も無いとは言いえないだろう。

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら