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日本人研究者が発見!食糧難を救う「最強作物」の作り方

過酷な環境でも育つイネやダイズが実用間近

地球温暖化による異常気象や人口の増加など、今後50年間で大きな環境の変化が予測されるなか、人類にとって最も重要な食の確保はできるのだろうか? 

その不安を解消する期待の研究が国内外から注目を浴びている。乾燥や低温といったストレスに対し、植物はどのように耐えているのか。そのしくみを明らかにし、私たちの未来を支える「新たな作物」の開発を進めている東京大学大学院の篠崎和子教授の研究を取材した。

地球規模での環境の劣化

私たち人類にとって欠かせない食糧。特にイネやコムギ、ダイズ、トウモロコシといった主食とされている作物は世界各国で栽培されており、様々な地域の食卓を支えている。しかし、このような主要な作物の多くは野外で栽培されているため、異常気象などにより収量が大きく変動し、年によっては供給が困難となる恐れがある。

 

たとえば、2012年南米各地で続いた異常気象により、ダイズの主な生産国となっているブラジル、アルゼンチン、パラグアイでは干ばつが続いた。その結果、3ヵ国におけるダイズの収量が前の年に比べて14%減少したことが報告されている。

気象だけでなく「塩害」も作物の収量の減少に関係する。塩害とは、過剰に灌漑農業を続けることにより塩を含む地下水が上昇し、表層に集まった塩によって農作物が育たなくなってしまうことだが、オーストラリアではコムギを栽培している農地の塩害が深刻な問題となっており、塩害に強い品種の開発が求められている。

今後、人口増加による食糧不足が予測されるなか、人類が安定的に食べ続けていくためにも、乾燥や塩といった環境ストレスに強く、収穫が見込める作物を開発することは重要な課題となる。

新たな品種の開発は、これまでも受粉による交配で進められてきているが、近年、科学技術の進歩により、受粉による交配を行わずに新たな種を開発することが可能になった。

東京大学大学院農学生命科学研究科の篠崎和子教授は、植物が環境から受けるストレスに対して反応するしくみ(ストレス応答機構)を長年研究し、植物が環境ストレスに対して耐性を示す一連の“しくみ”を発見した。

そのしくみを応用することで、現在、乾燥等の環境ストレスに強いダイズやイネ等の主要作物の品種改良が世界中の研究機関と協同で進められている。

植物が環境ストレスにこたえるしくみとは

篠崎教授は様々な植物のなかでも、シロイヌナズナという植物を用いて研究を行っている。シロイヌナズナは他の植物に比べ、遺伝子の総数が少なく、2ヵ月ほどで新たな世代をつくる。そのため、遺伝子を組換えたときに次世代の結果を短期間で確認できるという研究上のメリットがある。

シロイズナズナ
シロイヌナズナ(c)Marie-Lan Nguyen / Wikimedia Commons / CC-BY 2.5

植物は動物とは違い神経系をもたないため、細胞ひとつひとつがストレスを感じ、反応している。篠崎教授は、植物の細胞がストレスを感じてから反応するまでの流れを、細胞のなかにある小さな物質に注目して研究を進めた。

感じて応える植物
植物の細胞がストレスを感じてこたえるまでの流れ

植物の細胞では、ストレスを感じてからこたえるまでの間に、“遺伝子”や“タンパク質”といった小さな物質が活躍している。

遺伝子とは、塩基とよばれる4パーツ(アデニン:A、チミン:T、グアニン:G、シトシン:C)の組み合わせによってつくられる配列で、生き物の形質をコードしている。さらに、遺伝子にコードされている情報は、何かしらの“きっかけ”によって形質として現れるしくみになっている。たとえば、「乾燥耐性に関わる遺伝子」にコードされている「乾燥耐性」という形質が、ストレスを感じたときに現れてくるのだ。