「作品のためなら、ここまでやります」作家・池井戸潤の仕事術

映画版『空飛ぶタイヤ』公開記念【後編】

6月16日に公開される映画『空飛ぶタイヤ』。作家・池井戸潤氏にとっては初の映画化作品となる。ベストセラーを連発する作家の仕事術、その驚きのキーワードは「適当」だった。マイペースを保ちつつ、誠実に、かつ積極的に作品を読み手に届ける、その戦略を聞いた。

(前編【池井戸潤が明かす「書きたいと思う小説の条件」】はこちらから)

あまり表には出ない理由

サラリーマンも作家も、頑張りすぎず「適当に」、細く長く仕事を続けていくことが肝要――。池井戸氏は仕事を続ける極意のひとつを、そう捉えているという。

「肩の力を抜いて、たまにはちょっと力んだりもしながら、適当に、長く続けていく。一冊売れたとしても、それで終わりじゃない。人生、次がありますから。うまくいったり、失敗したりを繰り返しながら、腐らずに、そこそこに生きていくということが、すごく大事だと思います」

しかし、池井戸氏を取り巻く現況は、側から見ればその対極にあるように思えてならない。常に新作が待望され、さらには、発表されると同時に映像化のオファーは引きも切らず。15年の『下町ロケット』ドラマ化(TBS)の際には、続編となる新作『下町ロケット2 ガウディ計画』がドラマ放送開始と同時に新聞掲載され(ただしダイジェスト版)、さらにそれが即時映像化されるという、前代未聞の展開に驚かされた。

 

「ドラマにするのに1冊分では足りないので、もう1作くださいと言われていて、同時進行ということになった。でも、あれはちょっと先物取引をしすぎたかなと、反省しているんです。」

だが、求められること自体は、プレッシャーや苦痛にはならないという。

「書く内容については、自分で決めているから。『こういうテーマでお願いします』と言われるものは、仮にそれが面白いものであっても断ります。テーマは作者である私が決めます、と。新刊なら、最大でも年2冊。それでいっぱいいっぱいというところじゃないでしょうか」

ペースを守って、やりたいことをやる。一貫した姿勢を貫く池井戸氏に、仕事人としてのセルフ・プロデュースの極意を尋ねると、「プロデュース、ということはないけれど……」と前置きしながら、こんな方針を語った。

「まず『表に出ない』こと。今回のような映像化のPRや新作を発表する際の取材は別ですが、テレビやラジオ、講演やトークショーには一切出ない。ここのところ、例外なく断っています。

なぜなら、今の読者の方々は、作品と作家を結びつけて読む傾向がすごく強いから。この人はこういう経歴だからこういうものを書いたんだ、というのはまだしも、テレビに出て話したり、クイズ番組で簡単な問題を間違えたりしているのを見て、『意外とアホだな。』と思われかねない(笑)。

なので、作家の姿はなるべく消して、小説を純粋に読んでもらったほうがいいというのが、僕の考え方。最近は、本の広告にもなるべく写真を使わないようお願いしているので、おかげで電車に乗っていても誰にも気づかれない。作家に関する情報は、本の袖に載せているプロフィールくらいで十分だと思います」