「世界2大迷惑」金正恩とトランプに振り回される習近平の悲哀

苦労しているのは日本だけではない
津上 俊哉 プロフィール

金正恩の急変は習近平の影響ではない

ところが、順調に見えた米朝交渉準備がとつぜん暗礁に乗り上げた。5月16日、北朝鮮が実施中の米韓軍事演習を槍玉に挙げて予定されていた南北高官級会談の中止を通告、併せて北朝鮮外務省高官が「リビア方式」を唱えるボルトン補佐官を名指し攻撃して米朝首脳会談の放棄にまで言及した。

トランプは慌てて「リビア方式は全く考えていない」「(合意すれば)体制は保証される」と取りなすと同時に、(態度急変は、習近平が金正恩に)「影響を及ぼしている可能性がある」と述べた。金正恩が4月末、急に2度目の訪中をしたことを想起しながらだ。

習近平が金正恩に「トランプを軽々に信じるな」と釘を刺した可能性はある。「速攻」で妥結されると、米朝に貸しを作る暇も与えられず、いよいよ「蚊帳の外」感が強まるからだ。

 

しかし、「それで金正恩の態度が急変した」と考えるのは無理だ。それではまるで「金正恩はそれまでトランプを信じていたので、習近平から釘を刺されてギクリとした」みたいに聞こえるが、金正恩がそんなお人好しであるはずがない。

態度が急変した原因は、「体制を保障する」か否かという意味での「リビア方式」やボルトン補佐官の発言云々ではなく、5月14日頃から急にメディアを賑わせ始めた「核とミサイルを国外に搬出する案」にあるのではないか。

この案は、ボルトンだけでなくポンペオもメディアに言及しており、要求として北朝鮮に持ち出されたことが確実だ。

だが、「非核化」のための廃棄作業に外国人を関与させ、ブツを国外に搬出することになれば、廃棄を偽装することが難しくなるだけでなく、廃棄プロセスが計量化されて透明化の度合いが高まる(「他にもまだ隠しているだろう、出せ」式だ)。

そんな方式に応じることは、北朝鮮の事前の想定になかったのではないか。

この推論が当たっていれば、首脳会談の事前準備がいよいよ交渉の最大、最難関の論点に突き当たったことになる。「ボルトン云々」は口実にすぎない。

ちなみに、朝日新聞ソウル支局は5月18日付けで「4月末、韓国が大部分の北朝鮮核兵器や核物質を国外に搬出させる案を米国に提案」と報じたことを「事実無根」と咎められて、大統領府「無期限出入り禁止」処分にされたという。国外搬出案はどのメディアにも載っており、朝日記事のポイントは「韓国が米国に提案した」というくだりだ。

仮に北朝鮮が「国外搬出」に強く抵抗しているのだと仮定すると、そのことを知った大統領府が「北朝鮮から『オマエら韓国がそそのかしたのか!?』と責められる」ことを恐れて、朝日を悪者にしたという推論は成り立たないだろうか。

明5月23日(日本時間)には、ワシントンに向かった文在寅とトランプの首脳会談の結果が入ってくるはずだが、米メディアは「トランプは懐疑心を強めている」と報じている。会談で「金正恩が戦争に戻りたいなら、やってやろうじゃないか!」と吠える可能性、さらには6月12日シンガポール交渉をキャンセルする、仮に開催しても1回目の交渉は「決裂」させるかもしれないことを言っておこう。

そうやって北朝鮮と世界を恐怖に陥れたうえで、金正恩に米国の要求を呑むように仕掛けるためだ(米国メディアAXIOSに「金正恩との会談のことを訊かれたトランプが『前任者達はみな相手に手の内を読まれていたが、私が何をしようしているかは誰にも分からない』とうそぶいている」と書いてあったのを読んでそう感じた)。