「世界2大迷惑」金正恩とトランプに振り回される習近平の悲哀

苦労しているのは日本だけではない
津上 俊哉 プロフィール

習近平は北朝鮮問題で何を目指す?

「朝鮮半島の命運を左右する交渉が、南北朝鮮と米国の3ヶ国ペースで進められる」事態は、中国として何としてでも避けなければならない。北東アジアの地政学的な景色を一変させる問題だからだ。朝鮮半島は昔からそういう場所だった。

例えば、そこで国境を接する朝鮮半島にTHAADシステムを擁する在韓米軍が駐留し続けるのかどうかが決まる。仮に「北朝鮮の非核化」や「戦争状態の終結」が達成されるなら、元来朝鮮戦争休戦に伴って撤収するはずだった在韓米軍がこれ以上居座る理由はなくなる・・・中国はそう考える。

ところが、4月下旬、文在寅大統領はメディアに「朝鮮半島非核化をめぐる協議の前提条件として在韓米軍撤退を求めない考えを金委員長が示している」ことを明らかにした。

北朝鮮も文在寅のような韓国リベラル派も、在韓米軍という外国軍隊が駐留することには反感を覚えているが、かと言って在韓米軍が撤退して力の空白が生ずると、今度は「中国にかぶせた瓶のフタが外れ」て、中国から圧迫される不安を覚えても不思議ではない。

しかし、そんな話を聞くと、中国はいっそう躍起になって「蚊帳の中に入」ろうとするだろう。結果的に中国をそうやって焦らせる役割を文在寅が演じているのは興味深い。

 

中国にとって悪い話ばかりでもない

米朝首脳会談の結果、在韓米軍が駐留し続けることになったら中国には不利だが、一方で北東アジアの地政学上、中国に有利な結果がもたらされる可能性もある。

例えば、「米本土に届く核搭載ICBMは早期除去が決まったが、日本に届く中短距離核ミサイル問題は放置、拉致問題の前進もなし、それなのにトランプは得意満面でノーベル平和賞を受賞する気になっている」・・・そんな結果に終わると、日本で「トランプに裏切られた」「米国は頼みにならない」といった声が起こるだろう。

「トランプの『アメリカ・ファースト』のせいで、日米同盟が動揺するかもしれない」……中国は米朝交渉の結果が地域に及ぼすそんな影響も注視しているはずだ。

最近の中国が対日関係の改善に熱心なのは、一義的には「中米関係が悪化しても他の2国間関係が改善している(孤立していない)」とアピールしたがる中国外交のバランス感覚によるものだが、穿って考えると、今後の日米関係の動揺を見越して「米国よりナイスな中国」をアピールする先行投資なのかもしれない。

トランプやポンペオはこの1ヶ月、米朝首脳会談に対して楽観的な見通しを振りまいてきた。北朝鮮も「核全廃に応ずる見通し」といった外野の観測だけでなく、労働党中央委員会や軍事委員会を開催して「非核化合意」後の新たな経済・国防政策を検討し始めた徴候が見えた。

合意が成立するとしたら、CVID(完全かつ検証可能で不可逆的な非核化)の担保方法として、核やミサイルを国外搬出するのか、IAEAの査察が導入されるのか、技術者の海外移住などというアイデアまで取り沙汰されたが、これらの組み合わせと、国連制裁の一部解除(手始めは韓国の投資解禁?)の抱き合わせのようなかたちになるのだろう。

いずれにしても、そんなにカッチリとした合意にはならないし、米本土に届く核搭載ICBMと日本に届く中短距離核ミサイルの扱いに段差がつくことも、最初から覚悟して積み残された細部のフォローアップを中国にも呼びかけて進めるべきだ。

残念だが拉致問題についても、今回は北朝鮮から何も引き出せずに終わるだろう。北朝鮮が経済面で目指すのは制裁の緩和や韓国からの投資であり、それ以上を求めて譲歩を迫られることはしないはずだからだ。日本の経済援助がカードになるのはまだ先だと思われる。