カンヌ最高賞・是枝監督「万引き家族」が問う、いびつな家族のきずな

「家族を描く理由」を本人も知らない
井戸 まさえ プロフィール

病院で子どもを取り違えられた家族の葛藤を描いた「そして父になる」は、その難しさを描いた作品である。

福山雅治演じるエリートサラリーマンと、リリー・フランキーが演じる決して豊かとは見えない自営業者。血縁を超えても子どもを愛せるのかという重いテーマの他にも次々と「家族」を問う仕掛けが用意されている。

金銭的に豊かで、清潔な暮らしを提供できる父のもとで育つことが、子どもにとっての幸せだろうというジャッジを、私たちは何のためらいもなくしがちである。

しかしその豊かさを持つ父は子どもの取り違えに対して、「どうして気づかなかったんだ。母親なら気づくはずだろう」と冷たい言葉で妻を責める。

夫と妻は共に被害者なのに、「母なのに気付かなかった」という理由で、妻は夫である自分にとっての加害者だと言わんばかりに。

是枝監督が指摘するように、こうした暴力性さえ孕む母性神話の奥には、こうした未成熟な父親の心理とともに、男性の責任逃れが正当化されて行く社会構造も存在する。

福山雅治演じる主人公の台詞には「男尊女卑」も見え隠れする。多かれ少なかれ個人の中に存在するこの感覚をどう増幅させて主人公に言わせるかということに腐心したと、是枝監督は振り返っている。

子どもたちの成長とともに、その主人公にも変化が訪れる。「そして父になる」過程を季節の移ろいとともになぞる。人生を閉じる瞬間まで葛藤はやむことはないという現実を突きつけながらも、その中にも希望の種を植え込む。

 

「万引き家族」で問う性愛と生

今回パルムドール賞を受賞した「万引き家族」。

東京の下町に暮らす、日雇い仕事をしている夫とクリーニング店で働く妻。夫婦の息子、風俗店で働く妻の妹、そして家主である祖母の5人家族。家族は祖母の年金と、親子で手がける「万引き」で生活している。

近所の団地に幼い女の子が震えているのを見つけ、夫は家に連れて帰る。体中に傷跡のある少女はこの家の6人目の家族となった。

しかし、ある事件が起こり、家族はバラバラに引き裂かれる。と同時に、それぞれの秘密が次々に明らかになっていく、というストーリーだ。

親は子供に教えられることが犯罪しかないので、万引きの手口だけは教えている。子どもはそれが悪いことだとは思わないから、お父さんのように上手になりたいと思っている。

倫理観が徹底的に壊れた中で、子どもと大人が、もしくは男と女が「犯罪」だけでつながっている家族。

事件化されるとそれは誘拐であり、虐待であり、DVでもある。

閉じた空間の中で何かが逆転していく中で、それが皮肉にも血縁を超えるかもしれない「きずな」を作っていたのだ。