養老孟司が語る「デジタル化する世界」を生きる人々への処方箋

第22回ゲスト:養老孟司さん(後編)
島地 勝彦 プロフィール

欲望に正直に生きたほうがいい

養老: 原発が象徴的ですが、人間が制御できないものは、安易に立ち上げるべきではないと思います。すべて人間がコントロールできるというのは幻想であり、思い上がりです。健康だってそう。自分だってコントロールできないでしょう。誰しも歳を取ればよぼよぼになるし、最期はあっけなく死ぬ。それが自然です。

島地: そういう意味で言うと、仏教は神羅万象を受け入れることが前提としてあり、今の時代の流れに逆行している部分もありますね。

養老: でも、そこに魅力を感じる人がヨーロッパにも増えています。すべてを管理しようとするキリスト教的な社会に疲れたんじゃないでしょうか。アメリカは国としての歴史が浅いから、まだそこまで至ってませんが、いつか気づくはずです。

日野: ところで、養老先生は筋金入りの愛煙家として知られていますが、煙草は一日どれくらい吸うのですか?

養老: 数えません。意味がないから。吸いたい時に吸う。それだけです。

島地: 数えるというのは、コントロールすることに近いから、筋が通ってますね。

養老: 血圧も計りません。そんなこと気にしてストレスなるのが、身体には一番悪いんです。今の禁煙圧力はちょっと異常ですよ。マナーを守ることは大切ですよ。でも社会全体で排除しようとする動きには感心しませんね。

島地: ファッショ的、ですよね。今までたくさんの解剖に立ち会って来られた経験から、喫煙者と非喫煙者の肺には目立った違いはあるのでしょうか?

養老: ぼくの知る限りですが、ありません。自動車の排気ガスをはじめ、汚れた空気の中で生活していたら肺はどうしたって汚れます。年寄りを解剖したら、喫煙者じゃなくても、みんな肺は真っ黒ですよ。そんなこと考えて悶々とするくらいなら、マナーを守って、やりたいことをやったほうがいい。

島地: というお話をいただいたところで、最後に、とっておきのウイスキーを飲みながら、一服するとしましょうか。

日野: シマジさんはこのまま、欲望にまかせて生きるんでしょうね。まわりの人間には制御不能ですから。

養老: 結果的に、それが健康で長生きする秘訣かもしれませんよ。

島地: 養老先生のお墨付きをいただいて、安心いたしました。ありがとうございました。

〈了〉

(構成:小野塚久男/写真:峯竜也)

養老孟司(ようろう・たけし)
1937年、鎌倉市生まれ。東京大学医学部卒業後、解剖学教室に入る。1995年、東京大学医学部教授を退官し、同大学名誉教授に。1989年、『からだの見方』でサントリー学芸賞を受賞。1985年以来一般書を執筆し始め、『形を読む』『解剖学教室へようこそ』『日本人の身体観』などで人体をわかりやすく解説し、『唯脳論』『人間科学』『バカの壁』『養老訓』といった多数の著作では、「身体の喪失」から来る社会の変化について思索を続けている。
島地勝彦(しまじ・かつひこ)
1941年、東京都生まれ。青山学院大学卒業後、集英社に入社。『週刊プレイボーイ』『PLAYBOY』『Bart』の編集長を歴任した。柴田錬三郎、今東光、開高健などの人生相談を担当し、週刊プレイボーイを100万部雑誌に育て上げた名物編集長として知られる。現在はコラムニスト兼バーマンとして活躍中。 『甘い生活』『乗り移り人生相談』『知る悲しみ』(いずれも講談社)、『バーカウンターは人生の勉強机である』『蘇生版 水の上を歩く? 酒場でジョーク十番勝負』(CCCメディアハウス)、『お洒落極道』(小学館)など著書多数。