養老: 原発が象徴的ですが、人間が制御できないものは、安易に立ち上げるべきではないと思います。すべて人間がコントロールできるというのは幻想であり、思い上がりです。健康だってそう。自分だってコントロールできないでしょう。誰しも歳を取ればよぼよぼになるし、最期はあっけなく死ぬ。それが自然です。
島地: そういう意味で言うと、仏教は神羅万象を受け入れることが前提としてあり、今の時代の流れに逆行している部分もありますね。
養老: でも、そこに魅力を感じる人がヨーロッパにも増えています。すべてを管理しようとするキリスト教的な社会に疲れたんじゃないでしょうか。アメリカは国としての歴史が浅いから、まだそこまで至ってませんが、いつか気づくはずです。
日野: ところで、養老先生は筋金入りの愛煙家として知られていますが、煙草は一日どれくらい吸うのですか?
養老: 数えません。意味がないから。吸いたい時に吸う。それだけです。
島地: 数えるというのは、コントロールすることに近いから、筋が通ってますね。
養老: 血圧も計りません。そんなこと気にしてストレスなるのが、身体には一番悪いんです。今の禁煙圧力はちょっと異常ですよ。マナーを守ることは大切ですよ。でも社会全体で排除しようとする動きには感心しませんね。
島地: ファッショ的、ですよね。今までたくさんの解剖に立ち会って来られた経験から、喫煙者と非喫煙者の肺には目立った違いはあるのでしょうか?
養老: ぼくの知る限りですが、ありません。自動車の排気ガスをはじめ、汚れた空気の中で生活していたら肺はどうしたって汚れます。年寄りを解剖したら、喫煙者じゃなくても、みんな肺は真っ黒ですよ。そんなこと考えて悶々とするくらいなら、マナーを守って、やりたいことをやったほうがいい。
島地: というお話をいただいたところで、最後に、とっておきのウイスキーを飲みながら、一服するとしましょうか。
日野: シマジさんはこのまま、欲望にまかせて生きるんでしょうね。まわりの人間には制御不能ですから。
養老: 結果的に、それが健康で長生きする秘訣かもしれませんよ。
島地: 養老先生のお墨付きをいただいて、安心いたしました。ありがとうございました。
〈了〉
(構成:小野塚久男/写真:峯竜也)