二刀流での長距離遠征という誰も経験したことのない冒険が大谷を待ち受ける(photo by gettyimages)

大谷翔平最大の敵は「地獄の時差ボケ」かもしれない

いわゆる「死のロード」がはじまります
アメリカは広い。大谷のエンゼルスが本拠地とするロサンゼルスから、同じアメリカン・リーグに属するライバル、ヤンキースの本拠地・ニューヨークや、レッドソックスの本拠地・ボストンまでは、直線距離で約4000キロ、飛行機で約5時間半、時差は3時間ある。

ルーキーとしては希有な活躍を見せている大谷だが、今週、メジャーならではの「死のロード」の洗礼を受けることになる。はたしてどれほど過酷なのか。メジャーリーガーとして9年間を過ごした長谷川滋利氏が、その現実をレポートしてくれる。

チャーター機の席はエコノミーだが、家族連れOK

メジャーリーグも開幕から一ヵ月半が経ち、40試合を消化しました。

エンゼルスの大谷翔平選手は月間新人MVPを受賞するなど、素晴らしい活躍を続けていますね。日本でも連日、動向が注目されていますが、地元・アナハイムでも彼の活躍は「SHOWタイム」と歓迎されています。

しかし、脅かしたいわけではないのですが、メジャーのシーズンはこれからが本番です。5月から大型の遠征がいよいよ本格的に続きます。4月にも遠征はあったのですが、テキサスとカンザスシティでの7試合という中西部への中規模の遠征で、うち1試合は中止になりました。

 

しかし、5月からはついにカナダや東部など、北米大陸の反対側を転々とする連戦が始まります。僕の頃はインターリーグはこの時期だけだったので、まだ「しゃーない。1ヵ月、頑張ろう」と割り切れたのですが、2013年に年間スケジュールが改変されてからは、年中、遠征があるので昔よりきついと思います。

特にエンゼルスの5月は、なかなかの密度です。5月8日のコロラドでのビジター戦から20日(日)まで13連戦、21日(月)の移動日を挟んで、22日(火)からはビジター10連戦という長い遠征に出ます。

そこで今回は、私の経験をベースに、過酷といわれるメジャーの遠征がどれほどのものなのか、紹介したいと思います。

月刊新人MVPを獲得した大谷。4月までの成績は、打者として12試合に出場し、打率3割4分1厘、4本塁打、12打点。投手としても4試合で2勝1敗、26奪三振、防御率4.43と大活躍だった(photo by gettyimages)

エンゼルスは20日(日)に、地元アナハイムでのタンパベイ・デビルレイズとのゲームを終えると、それぞれ帰宅して遠征の準備をします。といっても、ユニホームやスパイクなど、野球関連の荷物はクラブハウスのスタッフが用意してくれるので、移動のためのスーツと、身の回りの私服くらいですかね。

試合のない翌21日(月)にクラブハウスに集合してバスに乗り、近所のオレンジカウンティ空港に向かいます。ただ、バスはターミナルに寄らずに、そのまま飛行機のタラップ脇に停まります。僕は初めて遠征に出るときに、これにびっくりしましたね。いきなり滑走路に進入していくわけですから。

「何してんねん、チェックインは? 手荷物検査は?」

と慌て、チームメイトに笑われたのを覚えています。

すごい待遇ですよね。メジャーリーガーは本当に大切にされているんだな、と実感したのはこういうときです。

飛行機はご存知、チャーター便ではありますが、翼にエンゼルスのロゴが入っていたりするわけではありません。普通の航空会社、僕がエンゼルスにいたときはアメリカウェスト社(現在はアメリカン航空に統合)の機体でした。みなさんも乗っているような、前の方にビジネスクラスがあって、後ろにエコノミーがある普通の旅客機ですね。

ビジネスクラスにはだいたい、監督やコーチが座ります。選手はエコノミーを3席使うとかそういう感じですね。席順は決まっているわけではないけど、なんとなく暗黙の了解があってベテランが後ろです。

たとえば、シアトル・マリナーズにいたときは、エドガー・マルティネス、リッチー・セクソン、ブレッド・ブーンといったベテラン選手が後ろの方でしたね。僕もその頃はキャリアを積んでいたのでそのあたりに座ってました。イチロー選手はキャリア関係なく前の方に座って、よくダウンタウンのDVDを観て一人で笑ってましたね。

大谷選手はおそらく前のほうに座ると思うのですが、彼はルーキーですから、しっかりイジられると思いますよ。特に彼はキャンプから、あんなに溶け込んでいるので、何かイタズラを仕掛けられる可能性は高いと思います。

ただ、よく報道されている服を隠されて、仮装させられるような仕掛けがあるかはわかりません。多くの球団は、9月にルーキーパーティーがあるので、そっちがメインになるかもしれませんし、最近は日本人メジャーリーガーの存在も知られて来ているので、「こいつは日本で実績あるんだから、やったら失礼やろな」という空気もあると聞いてます。

僕のときも、ジャック・ハウエルという選手がいて、彼はヤクルトでもプレーしてたんですけど、「シゲは日本でキャリアがあるんだから仮装とかやらんでええよ」と言ってくれましたね。

でも僕は当時、27歳でしたけど、「正直、やってもらってええけどな」と思っていました。その方が手っ取り早くチームと仲良くなれるので、積極的にイジられて、「あいつ面白いヤツやなあ」と思われた方がいい。そのあたりもメジャーにアジャストする一つのコツだったりします。

機内にはフライトアテンダントがちゃんといて、機内食を出してくれます。これも特別ではない、おなじみのやつですね。まあ、味も想像通りです。腹が減っている若手はそれでも食べたりしてますが、僕は機内で食事をする習慣がないので、あまり食べませんでした。

その代わり、マリナーズ時代は、ワイン好きのジェイミー・モイヤーがいいワインを持ち込んでくれいたので、それをごちそうになったりしました。彼とワインのことをあーでもないこーでもないと話しながら移動したのは、メジャー生活でも指折りの楽しかった思い出かもしれません。もちろん機内への持ち込み制限はありません。

あとは細かいことでいうと、マイルは貯まりません。球団によっては家族も同乗できます。これも暗黙の了解があって、やはりどの奥さんもニューヨークやボストン、人気の都市についていきたいわけですよ。さすがに全選手の家族を乗せることはできないので、そういう場合はやはりベテラン優先ですね。忖度です。

機内はそんな感じですが、5月の遠征を順に追っていきましょう。