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いまさらだけど、イチローはなぜ「華麗なる引退」を選ばなかったのか

周囲はとても言えないだろうから

(※本記事は2018年5月に週刊現代記事に掲載された記事です。)

特別契約は「苦肉の策」

「野球の研究者でいたい。プレーしなくても、毎日鍛錬していくとどうなっていくのか見てみたい」

現地時間5月3日にシアトル・マリナーズのイチロー(44歳)が行った会見は、日米両国で大きなニュースになった。今季の残り試合にはいっさい出場せず、今後は「球団会長付特別補佐」として、チームに帯同するというのだ。

試合に出ないとはいえ、マイナーリーグへの降格や戦力外ではなく、常にメジャーの練習に参加して野球を「研究」しながら、若手選手に技術指導をしていくという。

メジャーでも前代未聞の「特別契約」が、このタイミングで発表されたのには理由がある。

 

「直前の5月1日に、マイナー降格していた外野手のエレディアが再昇格することが発表されたのです。元々、エレディアが降格する際には、『なぜ彼が落ちて、活躍していないイチローが残るのか』と地元メディアが猛反発していた。

たしかに、打率・205というイチローの今季の成績を考えれば、マイナーに降格されるか、自由契約となり、事実上の『引退勧告』をされるのが普通です。ところが、イチローほどのスター選手になると、簡単にはそれができない。

もはや、地元でさえ抑えられなくなった『イチロー不要論』に配慮しつつ、なんとかイチローのメンツも立てなければいけない。悩みに悩んだマリナーズの苦肉の策が、あの『特別補佐契約』なのです」(スポーツ紙メジャーリーグ担当記者)

野球評論家の広岡達朗氏は、イチローの実績を賛えたうえで、今回の特別待遇を手厳しく批判する。

「50歳までやりたいという心意気は立派です。

でも、それはあくまで若い選手と同じ土俵に立って結果を残し続けるからこそ許される。

ああいう契約を打診された時点でチームの意図を悟り、自ら引退を申し入れてコーチに退き、経験を伝える立場に専念すべきでしょう。あれだけ立派な成績をあげた超一流の選手が、なぜわからないのか」

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'01年のメジャー1年目から首位打者、最多安打のタイトルを獲得し、'04年にはシーズン最多安打記録を84年ぶりに更新。

'16年には、メジャー単独での3000本安打を達成――。イチローが残してきた実績は、あまたいるメジャーリーガーのなかでも頂点に君臨する輝かしいものだ。

ここまでの存在となると、周囲はとても「引退したらどうか」とは言い出せない。

実際、マリナーズとしては、来春に東京ドームで行われる開幕戦でイチローを限定的に復帰させて花道を用意し、その後ふたたび若手へのアドバイザーに戻す腹積もりだ。イチローが自ら「引退」に言及するのを待つしか手がないからである。

だが、チームのそんな「真意」をイチローが理解している様子は感じられない。

「来年の春に僕が240ポンド(約109kg)になっていたら終わり。そうでなければ終わりではないと思います」

いつもの独特の言い回しで、はっきりと引退を否定してみせたのだ。

しかし、メジャーリーグ評論家の友成那智氏は、「データから見ても、復活は難しい」と語る。

「今季のイチローは、44打数でわずか9安打。それもすべて単打で、得意の盗塁さえ一度もできていない。打撃不振はここ数年ずっとなので、もはや驚きませんが、致命的なのは守備までが衰えていること。

指標を見ると、肩の衰えと守備範囲の狭さの両方でチームの足を引っ張っています。打てないし、守れない。この状態から盛り返すことはイチローといえども厳しいでしょう」

メジャーの移籍市場では、日本以上にデータが重視される。マーリンズに所属していた昨年までの3年間、イチローは十分な打席数を与えられながら、一度も100安打の壁をクリアできず、盗塁も激減した。

マーリンズを退団後、古巣のマリナーズが手を差し伸べるまで4ヵ月近く所属が決まらなかったことが、いまのメジャーでのイチローの評価を物語っている。