「からくりシリーズ」の誕生
ブルーバックスと私の付き合いにおいて、1つの画期となったのが、2冊めの著書である『宇宙のからくり 人間は宇宙をどこまで理解できるか?』の刊行であった。テーマは早くから念頭にあり、「世の中どうしてこうなのか?」を解き明かす本にしたいと考えていた。
自然現象は必ず、1つの例外もなく物理法則に従って生じる。水を温めれば沸騰するのも、海流や台風が生じるのも、果ては地球や太陽、否、銀河や宇宙そのものが今、このような姿で存在するのも、すべては物理法則に支配されている──。それはなぜか?
この問いに答えるブルーバックスを書いてみたいという話をしたところ、先のYさんから「森羅万象すべての原理としくみを語るなら、『宇宙のからくり』という言い方がふさわしいのではないでしょうか」と提案されたのである。これが、以降、1冊の例外を除いて、ブルーバックスにおける私のすべての著作につけられることとなる「からくり」というキーワードとの出会いであった。
『光と電気のからくり』『量子力学のからくり』『真空のからくり』『時空のからくり』……と続く「からくりシリーズ」の嚆矢(こうし)となった『宇宙のからくり』を、私は文字どおり一気呵成に、2週間足らずで書き上げた。初稿に目を通したYさんが「山田さんの筆力にあらためて驚かされた」と労をねぎらってくれた同書は、1999年度の講談社科学出版賞を受賞するという望外の栄誉も得て、『原子爆弾』とはまた異なる感慨と記憶を私に与えてくれた。
★ からくりシリーズ ★

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「熱く」「厚い」が真骨頂の「物理学白熱講義」
Yさん以降の歴代の担当編集者にいわせれば、私の著作には2つの特徴があるのだという。
第一に、「厚い」。そして第二に、「熱い」。
前者は、予備知識のない読者にも置いてきぼりを食らわすことなく、最後まできっちり読み通してもらいたいという気持ちから、細大漏らさず説明していくスタイルゆえのこと。
そして後者は、せっかく私の本を手にとっていただいたからには、とにかく理解してもらいたい、いや、なんとしても理解してもらうのだ、という強い思いが文面に溢れ出てしまうらしい。
現在の担当者は、「からくりシリーズ」のキャッチフレーズとして「物理学白熱講義」と銘打ってくれたが、私の原稿がもつ2つの「アツさ」が読者に受け容れられているのだとしたら、これに勝る喜びはない。
ところで、高校時代に抱いた「原子爆弾はいったい、どのようにしてあのような凄まじい威力を発揮するのか?」という疑問は、「からくりシリーズ」最新作である『E=mc2のからくり エネルギーと質量はなぜ「等しい」のか』へとつながった。アインシュタインの考案になるこの世界一有名な数式にこそ、その答えが詰まっているのである。
『原子爆弾』に端を発した私の思考の流れが、ひとめぐりして辿り着いた『E=mc2のからくり』は、「からくりシリーズ」史上、最も好調なスタートを切ることができ、順調に版を重ねてくれている。
面白いことに、私が他社から刊行した本で、増刷になったものは1冊もない。読み手としても書き手としても、山田克哉はブルーバックスから離れることができないのだな、と苦笑しつつ喜んでいる自分がいる。
私がかつて、都筑卓司氏のブルーバックスに熱中したように、私のブルーバックスに熱中してくれた読者の中から、次なる書き手が出てきてくれることを切に願う次第である。
