トランプの「イラン核合意離脱」で、米国から世界が離脱する

中東に劇的変化が起きるわけではないが
河東 哲夫 プロフィール

世界はトランプの米国リスクを認識

今回の核合意離脱で、トランプ政権が世界に対して持つ危険性がますます露わになった。

米国はこれまでも、自国市場の大きさを盾にとって他国企業に自国の法律を押し付け(中国も同じ手法を使う)、ドル決済インフラを使わせないと脅すことで、他国を意に従えてきた。

それでも米国が自由と民主主義を標榜し、他国の安全確保を助け、貿易赤字を許容していた間は、米国はあたかも世界の安定と繁栄のためのテンプレートを提供しているように見え、多くの国が是認してきたのである。

それがトランプのように、安全保障は自前でやれ、輸入関税は上げるというのでは、従う国はなくなるだろう。

米国は今回、急に変わったのではない。トランプ的な要素、つまり反知性主義、狭量、マッチョは米国社会に常にあった。

それは主流でなかったのが、リーマン金融危機で拡大した格差が一般層の不満を膨らませて表面化し、それがまたトランプという人物の「地」に実にマッチしたわけだ。

米国の政治制度は、金権政治を可能にする。また、世論を説得するのでなく煽るポピュリズム政治が米国に定着し、それにロシアや中国等の外国も悪乗りする。一部の富める者が欲にまかせてカネでカネを作り、格差を拡大していく。

米国の心ある人達はこれらを問題だと認めているが、もはや誰も手が付けられない。
憲法、制度というものは一度作ると、既得権益が生じて、修正できないのである。

「制度は自らの重みで倒れるしかない。中国での王朝交代の歴史を勉強してそう思った。米国は制度ができてもう200余年。そろそろ倒れても不思議でない」と、ある米国人が言っていた。

米国は、もう元に戻らないかもしれない。またはトランプが大統領でいる間に、世界を全く壊してしまうかもしれない。

 

筆者は、かねて「世界の多極化」を指摘してきた中国やロシアに組するわけではない。だが、さすがにトランプの米国を見ると、米国がその力を思うがままに揮るえる基盤を揺るがすことはできないものか? と思う。

例えば米国が自分の市場を武器として使ってくる(「米国で商売したいのなら……をやれ」というやり方)のだったら、米国市場の外に大きな市場を作ればいい。それはTPPとか、日本・EU間の経済連携協定締結などである。

またトランプ米国が日本製品に高い輸入関税をかけると言うのだったら、米国には最終製品ではなく部品や素材や機械、あるいは高級品だけ輸出したらいい。

そして、米国の原油輸入が減って来れば、ドルが世界貿易で用いられる比率も減ってくるだろう。これまでの実質的な「ドル・石油本位制」は終わるのだ。それに代わるものの姿はまだ見えないが。

トランプのように、力で旧い世界を復活させようとする者は失敗し、かえって全く新しい力を権力の座に呼び込んでしまうだろう。

1990年8月、ソ連の保守派が国体維持を意図して起こしたクーデターが失敗し、共産党は解体され、ソ連まで崩壊してしまった過程がそれを如実に物語る。

世界は欧州(ロシアを含む)、東アジア(日本を含む。中国中心の中世冊封体制に似たものになるだろう)、そして米大陸の3つにもっと分化していくだろう。

AIとロボットが生産性を飛躍的に向上させるだろうが、それでも富を奪い合うゼロサム・ゲームがなくなるわけではない。

今後の世界で主要な対立軸は、AIを使って究極の集権政治をする国々と、AIを民主主義の強化に利用する国々によって構成されるであろう。