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トランプの「イラン核合意離脱」で、米国から世界が離脱する

中東に劇的変化が起きるわけではないが

5月9日トランプ大統領は、オバマ政権が苦心の末にまとめたイランとの「2015年の核合意」をまるでドブに捨てるように、離脱を表明した。

約束を引っ繰り返せば普通、人でも国でも村八分になる。しかしトランプは力任せ、国際慣習も国際法も気にしない。

トランプ大統領の外交は、場末の酒場で荒くれ男たちがクダをまいているのを、そのまま政策にしたようなもので、一見小気味よくても、自分で自分の足を撃つようなことをしでかす。

例えば中国製品への関税を大幅に上げると脅したのに対して、中国は米国製大豆などの輸入に追加関税の導入を早速開始。それは、トランプの票田の米中西部の農家を直撃した。

今回のイラン核合意からの離脱は、いったい何を引き起こすのだろうか。

 

米国にも経済的打撃が

イランをめぐっては、多くの国の経済利害が入り乱れる。どの国も、自分の国の企業が手掛ける案件は、米国による制裁の対象にしないよう、陰に陽に米国に働きかけていくことになるだろう。

まず米国の企業自身が既得権益を持つ。

2015年の核合意後、ボーイングは100機ほどの輸出案件を進めている。インフラ建設が進めば、キャタピラ等米企業にもチャンスが来るだろう。

ドイツは、シーメンスがテヘラン・イスファハン間高速道路建設に関わろうとしているし、リニアモーターカー輸出の話しも持ち上がっている。

フランスのTOTALと中国の石油天然気集団(CNPC)は提携して、天然ガス田開発に乗り出そうとしている。オーストリアのエネルギー大手OMVは、LNG共同開発を進めつつある。

ただし、2015年の核合意でイランが失敗したのは、ミサイル開発とテロ支援に対する米国の制裁を解除できなかったため、米国で凍結されているイランの資産、推定約300億ドル分を使えないこと、また米国に制裁されることを恐れて、西側の銀行がイラン関係の融資に及び腰であることである。

またイラン国内の既得権益層の一部は、外国資本に権益を奪われるのを懸念して、核合意にも後ろ向きであったとされる。2015年の核合意の結果、2016年には原油生産が約24%増加、これによって成長率、外国貿易も急伸したが、思ったほど外国からの直接投資が増えなかったのは、このためである。

イランは日本に対する第6位の原油供給国だし、2015年の核合意後には対日輸入額が急増しているが、2001年には第3位の原油供給国であったことに比べると見る影もないし、右肩上がりで伸びていく気配も見えない。

米国の核合意離脱と制裁の復活は、イランからの原油供給減少を連想させ、世界の原油価格は急騰した。

米国の株式市場は、石油企業の株価に引っ張られてか上昇したが、これからは原油価格上昇によるインフレの伸長、景気減速というマイナスの方が目立つようになるだろう。

他面、これまでイランとひとつながりで見られていたロシアは、今回、トランプの「離脱」にさして反対するそぶりも見せず――このところすっかり内向きで、外向きの発言を控えている――、思いもかけず実現した原油価格再上昇を前に、我が世の春をこれから楽しむことになろう。今年、ロシアは7年ぶりに財政黒字(対GDP0.45%分)を計上する見通しとなった。

イランは世界でも有数の天然ガス埋蔵量を有する。しかし大消費地(欧州など)に通ずるパイプラインを欠き、LNGで輸出しようにも加工設備を持っていない。

今回の制裁回復で、イランの天然ガスが世界市場を席巻する日はさらに遠くなるだろう。