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# 仮想通貨

蔓延する「ブロックチェーンは善」という空気を鵜呑みにできない理由

「改変不能な記録」を記述するのは誰?

ブロックチェーンの価値とは

筆者は最近、マサチューセッツ工科大学(MIT)の「デジタル通貨イニシアチブ」でシニアアドバイザーを務めるマイケル・ケーシー氏に、よく「ビットコインは実のところ価値がない」という意見が出ることについて、どう考えているのかとたずねた。

彼の答えは、シンプルだが明快だった。「ビットコインの価値は、シャットダウンできないことにあります」。

 

ビットコインをシャットダウン(強制終了、ここではシステム全体を止めてしまうこと)できない理由は、すでに周知のことではあるが、取引がブロックチェーンという分散型台帳に記録されているからだ。

ブロックチェーンは誰もがチェックすることが可能だが、誰もコントロールはできない。つまり、誰にも気づかれることなくブロックチェーンを改ざんすることはできないのだ。ブロックチェーンが登場してから10年、これまで一度もハッキングされたことがないのは、そんな理由からだ。

ケーシー氏は、この仕組みが世界を変えてしまうと指摘する。「長年、情報を編集する権能は、支配者たちが牛耳っていました」とケーシー氏はいう。今ではビットコインのおかげで、「私たちは初めて、一見して改変不能な歴史の記録法を手にしたのです」。

しかし、それはどんな場合も「善」だと言えるのだろうか。

「不変性」という概念は、ブロックチェーン神話の根幹にあり、ポジティブなものとして評価されることが多い。ブロックチェーン関連のカンファレンスに行けば、「変化しない」(immutable)という言葉は、「エコシステム」という単語と同じくらい、あちこちで飛び交っている。

ジャーナリズムから人道支援、サプライチェーンまで、すべてにおいて不変性を保証するためにブロックチェーンを使おうとする組織もある。さらにブロックチェーンの不変性は政治分野にも波及している。先月、中国の活動家たちが、削除できないイーサリアムのブロックチェーンを使って、反体制的なメモを掲載し、検閲に楯突こうとした。

不変性を支える「ハッシュ化」

不変性の問題は、ケーシー氏と米紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」の記者、ポール・ヴィーニャ氏の共著『The Truth Machine』(『真実の装置』、邦訳未刊)の中でも大きく取り上げられている。『The Truth Machine』は、二人の前作『The Age of Cryptocurrency』(邦訳:『仮想通貨の時代』マイナビ出版)の続編という位置付けだ。

両著作の功績のひとつは、誇大に喧伝されがちな暗号世界について、従来とは異なる見解を提供していることだ。また二人の著者は、類まれな能力を発揮し、ブロックチェーンがどのように社会を再編していくかについて、幅広い分析と技術的な詳細を織り交ぜて読み解いてみせた。

『The Truth Machine』は、ブロックチェーンを改ざんするのがいかに難しいのかを理解するために避けては通れない、ブロックチェーンの暗号化技術についても解説している。

著者らは、ビットコインのマイナー(採掘者)が難解な数学の問題を解くために競い合い、その報酬としてビットコインを受け取っているのかの筋道を説明している。マイナーは、台帳に新たな取引のブロックを追加することに成功すれば、報酬を受け取ることができるが、ブロックチェーンの取引の、日時や量、送信者や受領者のアドレスを含むすべての詳細は、ハッシュ(文字や数字の列)を生み出すための特別なアルゴリズムによって処理される必要があるのだ。

このハッシュ化が、改ざんを難しくする重要な要素だ。同著によれば、「存在している取引に誰かが変更を加えようとすれば、他のマイナーたちは(変更によって)新規に作成されるハッシュが、自分たちの持つバージョンのブロックチェーンとマッチしないことに、はっきりと気がつく。よって彼らは、変更されたハッシュを受け付けない」

著者の二人は、こうした技術によって、ブロックチェーンが途上国をどのように一変させる可能性があるのか、大局的に解説している。公的な登記制度をめぐって汚職が蔓延し、住宅の登記書を持たない人たちがいる国では、ブロックチェーンは大きなインパクトになり得る。

たとえば、中南米の一部地域では、公的な権利書を持たない人がいる。裕福な住宅保有者であっても、アパートを購入する際に、誰かが役所の文書係に賄賂を渡して、権利書に自分以外の前を勝手に記載していることに気づく、などという事態が発生している。

日付が刻印され、公に監視され、改ざんができないブロックチェーンであれば、「(住宅などの)財産の譲渡は、当事者たちがプライベート鍵を使って取引を互いに検証することで、ただちに実行することが可能になる」と、同著は書く。これによって、「誰かひとりが独断で、自分の都合のいいように修正することは不可能」になるという。