「この国に陰謀論が蔓延する理由」歴史学者・呉座勇一に訊く

強い危機感を持っています
現代ビジネス編集部 プロフィール

次に、「フレーズ」に気を付けることです。陰謀論を売り込む時には、「〇〇に隠された真実」や、「教科書に載っていない〇〇」といった、過剰なフレーズが使われがちです。

特に「真実」を謳っている本には、注意をした方がいい。すべてが、とはいいませんが、陰謀論がからんでいるものが多いでしょう。「教科書に載っていない」もそうです。そもそも間違いだから、教科書に載せられないのです(苦笑)。

繰り返しますが、娯楽として楽しむことは否定しません。ただし、そうした類の説が好きな人たちも、「楽しむこと」と「信じること」の間に線を引くことが必要だと思います。

 

売れること、を意識した理由

困ったことに、ビジネスで成功した人など、社会的に影響力のある人も陰謀論に陥りやすい。これは、彼らが「ビジネスの世界では従来のやり方を踏襲していてはダメ。イノベーションによって新しい価値を生み出すことに意義がある」という思考に傾きがちなことも影響しているのかもしれません。

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しかし、ビジネスの世界でもやはり「通説」の価値は高いものです。世界トップクラスの富豪である投資家のウォーレン・バフェットは、株式を長期保有することで知られています。彼は、新しいビジネスが生まれたからといって、それに飛びついてすぐに投資することはないと明言しています。

自分がそのビジネスを理解できて、長期的に伸びると分かったものだけに投資します。表面的な目新しさに惑わされないことで、巨万の富を築いたわけです。「通説の正しさ」を知っているのでしょう。

時代遅れだとか、新しいものに価値があると決めつけるのは危険なこと。冷静に検証することで、何が陰謀で、何が陰謀でないかを見極めてほしい。

この、真実を見極める力を養うために、『陰謀の日本中世史』を読んでいただければ幸いです。

前著『応仁の乱』はおかげさまで45万部を超えるベストセラーになりました。出版社には申し訳ないですが、『応仁の乱』執筆時点では「この本は専門的な内容だからそんなに売れないだろうな。でも、売れなくても出すことに意義があるからそれでいいや」と思っていました(苦笑)。

それに対して『陰謀の日本中世史』は、ある程度売れることを意識しました。なぜなら、この本が社会的に影響力を持つことで、陰謀論が蔓延する今の社会の空気を変えたい、と思っているからです。

内容にも自信があります。プロが真剣に俗説に立ち向かったらこうなるんだ、というスリリングな展開を楽しんでいただけると思います。

この本が売れなかったら…?「日本人の愚民化をもくろむ秘密結社が妨害工作をしているからだ」と、陰謀論に陥ってしまうかもしれませんね(笑)。

通説を疑うことも大事ですが、まずは「俗説を疑う力」を養わなければならない――そのことを強く訴えていきたいと思います。

(取材・文/田中圭太郎)