音の発生はありふれた物理現象であり、その物理を理解していれば、身近なものを楽器として扱うことも可能だ。
音楽の背景にある物理と数学を解説する新刊『音律と音階の科学 新装版』の著者・小方厚氏に、誰でも今日から挑戦できるワイングラスによる演奏について解説していただいた。読者のみなさんには、ぜひとも演奏に挑戦してみてほしい。
水(酒でもOK)を入れたワイングラスの縁(リム)を濡れた指でこすると「ポーッ」という音がします(図1)。この音の高さは、グラスの大きさや中の水の量で変わります。そこで、音高の異なるグラスをたくさん用意すれば、楽器として演奏を楽しめます。
複数のワイングラスをセットとして演奏するときは楽器として扱い「グラスハープ」と呼びます(図2)。1セットのグラスハープを構成するグラスの数はさまざまです。グラスを12個用意してそれらが半音ずつ異なる音を出すように調節すれば、ピアノの1オクターブ(たとえばド・ド♯・レ・レ♯・ミ・…・シ)に相当する音を奏でられます。
かつて、スキー場の夜のペンションで10脚近いグラスを借りて、水の量で短音階に「調律」したことを思い出します。このときは、研究室の秘書嬢が学生たちに、あなたはラ、きみはミ…等とグラスを割り振り、自分は「耳なしゴジラ…(ミミラシドシラ…「荒城の月」の出だし)」と歌いながら指揮していました。
プロのグラスハープ演奏家もいます。Web上ではプロの演奏を撮影した動画がいくつも公開されているので、ぜひ探してみてください。たとえば次のリンクでは、グラスハープによる「トッカータとフーガ ニ短調」の演奏を鑑賞できます。この動画で用いられているグラスは、液体不要の演奏用グラスです。