ホメオパシーが普通の医療より「優れていた」理由をご存知ですか

ラボ・フェイク 第1回
伊与原 新 プロフィール

闇に閉ざされていた医療

ホメオパシーの創始者であるザムエル・ハーネマンは、ドイツ生まれの医師である。何カ国語にも通じたインテリで、当時広くおこなわれていた医療に強い疑問を抱いていたというから、志の高い人物ではあったようだ。

革新的な医療を模索する中で、ハーネマンは自らを実験台に、マラリアの治療薬として使われていたキニーネを服用してみた。すると意外なことに、彼の体にマラリアに似たような症状が出現したのである。

 

ハーネマンは様々な物質で実験を繰り返し、一つの”法則”を得るにいたった。「健康な人間にある症状を引き起こす物質は、その症状を示す病人を治すことができる」という法則である。しかもその物質は、薄めれば薄めるほど効果が上がるというのだ。

ハーネマンが提唱したこの斬新な”医療”は、19世紀前半にかけてヨーロッパとアメリカに広まった。多くの医師がホメオパシーを採用し、各地に専門の病院がつくられた。当時ヨーロッパに蔓延していたコレラやチフスなどの伝染病にも用いられ、顕著な効果を示したという報告もある。

ホメオパシーがそれほどまで隆盛を極めた理由は何か。サイエンスライターのサイモン・シンらが『代替医療解剖』の中で指摘しているように、その背景には、まさに”暗闇”ともいうべき当時の医療事情がある。

「その時点において最良」である医療

その時点で最善・最良と考えられる治療法のことを「標準医療」という。現代の標準医療はすべて、厳密な臨床試験を経て決定された「科学的根拠にもとづく医療(EBM, evidence-based medicine)」である。

19世紀前半という時代にも、標準医療は存在した。EBMという考え方が確立するずっと前の話なので、大半は科学的根拠のない(乏しい)治療法だ。現代の知識に照らし合わせれば、むしろ患者に害をなすようなものも多かった。

その最たるものが、瀉血だろう。水銀やヒ素の投与も当たり前のようにおこなわれていたというから、病ではなく、むしろ医療のせいで命を落とす者が多かったという話もうなずける。

標準医療に対する不信が広がると、「代替医療」が幅をきかせ始める。それはいつの時代も同じだ。

18世紀後半にオーストリアやフランスで大流行したフランツ・メスメルの磁気療法もその一つといっていいかもしれない。メスメルは、人体には磁気を帯びた流体が巡っていると考え、それを「動物磁気」と称した。施術者が磁石や自らの手を使ってその流れを整えることで、あらゆる病を治すことができると主張したのだ。

ちなみに、メスメルの磁気療法は19世紀に入って廃れたが、治療の過程で患者が催眠状態に陥るという発見が、のちに催眠術と催眠療法の開発へとつながった。「メスメライズ(催眠術をかける)」という言葉の由来は、このことにある。