日本郵政が「正社員待遇引き下げ」というパンドラの箱を開けた事情

ついに非正規しわ寄せに限界が…
加谷 珪一 プロフィール

もうひとつの大きな課題

だが日本の市場環境はこれを許さない状況となっている。安倍政権はコーポレートガバナンス改革を推進しており、企業に対して、より多くの利益を株主に還元するよう求めている。

コーポレートガバナンス改革には、株主を軽視してきた日本の資本市場を諸外国並みに改革しようという目的があるのだが、実はそれ以上に大きな理由がある。

それは公的年金の維持である。

 

日本の公的年金は、高齢者に給付する年金の額が、現役世代から徴収する保険料収入を大きく上回っており、慢性的な赤字となっている。安倍政権が公的年金の運用を安全第一の国債中心から、株式を中心としたリスク運用に切り替えたのは、積立金の運用益で年金財政の赤字を補填するためでもある。

すでに日本の上場企業における筆頭株主は、公的年金か日銀という状況になっており、企業に利益を還元するよう強く求めているのは、いわゆる資本家ではなく、公的年金を通じた私たち自身なのである。

つまり、企業が利益を減らしてしまうと、株主(公的年金)への配当が減って年金が危なくなり、企業が利益を重視すれば、従業員の待遇を下げなければならないという、完全な板挟み状態となっている。

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もし日本で解雇規制を撤廃し、ドイツのように企業が自由に解雇できるようにすれば、正社員の数が減る代わりに、賃金も大幅にアップするだろう(ドイツは解雇が自由な代わりに、失業者への支援が手厚い)。

だが現時点において日本社会がこうした決断を行う可能性はゼロに近く、このまま現状が維持されるのであれば、正社員の待遇を引き下げるしか対処する方法はない。

個人に残された選択肢としては、副業による収入アップということになるだろう。だが副業の世界は完全な自由競争であり、どれだけ稼げるのかは、人によってかなりの差がある。

終身雇用という形で市場メカニズムから逃れることができても、結局は副業で市場メカニズムにさらされてしまう可能性が高い。