Photo by Lucrezia Carnelos on Unsplash

最新VRが逆手にとる「視覚の死角」

驚異のリアリティはどう生み出されるのか

人間には、さまざまなセンサーが備わっている。聴覚、嗅覚、味覚、皮膚感覚……。

なかでも視覚、すなわち「目」は、非常に重要なセンサーであり、かつ依存度も高い。この目に入ってくる映像をすべて人工的なものに置き換え、仮想現実の世界へと没入させるのが、いわゆる「バーチャルリアリティ(VR)」だ。2014年頃から、VRは新しい時代に入っており、この技術を応用したビジネスも活発になっている。

面白いことに、そこで得られた知見の多くは、実は「人間の不思議さ」につながっている。我々は、“意外な形”で世界を見ているのだ——。

VRデバイス Photo by iStock

視線の動きに合わせて映像を書き換え

現在のVRは、想像以上に簡単な構造で実現されている。現在は5インチ程度が主流のスマートフォン大のディスプレイを目の前に置き、それで視界を覆うことで、ユーザーに見える対象物をすべて「映像に置き換える」のである。

といっても、単に映像に置き換えただけで、ありありとその世界に自分が存在しているかのように錯覚する「没入感」が生まれるわけではない。試しに、ご自分のスマホを目の前にもってきてみていただきたい。

どうだろう? 単に「四角い画面」が眼前にあるだけで、そこに映し出された世界に没入できるわけではないことがわかるはずだ。

 

そもそも、視界を覆うほど近くにスマホをもってくると、画面にピントを合わせることができない。ピントが合う場所まで目から離してしまうと、こんどは単に「小さな四角い窓」があるようにしか見えない。

そこで登場するのが「魚眼レンズ」だ。

通常のレンズの3〜4倍の画角をもつ魚眼レンズで映像をゆがませると、視界いっぱいに映像を広げることができる。人間の視野は、横方向におよそ180度ほど。そこまでの広さを実現したVR機器は少ないが、一般的な製品は100〜120度の視野をカバーしている。この程度の範囲まで覆われると視野全体が映像になったように見え、人はとたんに「自分が別の世界にいる」ように感じ始める。「没入感」が生まれ始めるのだ。

魚眼レンズでゆがませる分を考慮して、映像をあらかじめ「レンズでゆがむと正しい映像になる」ように生成しておくことで、全体の帳尻を合わせる仕掛けも施されている。

こうしたしくみは、2013年に開発版が公表された「Oculus Rift」で採用されたことからあらためて注目され、現在のVR機器における基本的アプローチとなった。視野を覆う効果がきわめて高い一方、安価なプラスチックレンズでも実現できる機構なので、きわめてコストパフォーマンスが高いのが特徴だ。

oculus go
5月に発売になったばかりのVR機器「Oculus Go」のレンズ部。プラスチック製の魚眼レンズをうまく使い、110度の視野を実現する。

とはいえ、「視界を覆う」だけで完全にその映像世界に没入できるわけではない。トリックは他にもある。

なかでも重要なのが、ユーザーが見ている視線の「方向」を検知し、それに合わせて映像を入れ替える手法だ。目の前のディスプレイは“のぞき窓”のようなものであり、その“のぞき窓”の先が「見えているべき方向」に合わせて書き換えられていけば、実際には目の前にある“のぞき窓の中だけの映像”であっても、人間には「その向こうに広い世界が広がっている」と感じられる。

簡単にいえば、「魚眼レンズ」と「視線方向に合わせて映像を書き換える」技術の組み合わせによって、VRは生み出されているのである。

低コスト化が生んだ第二次「VRブーム」

VRはかつて、1990年代初頭に大きなブームになったことがある。

軍事用技術の民間転用とコンピュータの高性能化が同時に起きた結果ではあったが、現在のVR用機器に似た製品は、その時代からすでに存在していた。