いつものトーストをもっと美味しくする方法

こんなにも奥が深いパンの科学
ブルーバックス編集部 プロフィール

パンの内側、クラム部分の香りは、原料の香りと化学反応による香味成分が複雑に絡み合ったものだ。パンの基本の材料は、主材料が小麦粉、イースト、塩、水、副材料が糖類、油脂、卵、乳製品であるが、それぞれに香りがある。特に糖類や油脂類は使うものによって独特の香りが出る。

たとえば糖類では、ハチミツの花の香り、黒糖やブラウンシュガーの雑分を煮詰めた香りなど。油脂類ではバター、オリーブオイル、オレイン酸など、それぞれに独特な香りがある。

また、化学反応による香りには、イーストのアルコール発酵によって生じるエタノールの香りやそのときに生じる副産物の香り(フレーバー物質)などがある。

パン屋さんから漂う、焼きたてのパンの香りはその大半が皮部分のクラストの香りである。軽い焦げ臭に少し刺激のある甘い香りがわれわれを虜にするのだ。

そのパンを割って内側のクラムの香りをかぐと、今度はツンとした刺激臭(エタノールの香りで、一般にはイースト臭と表現されることもある)を強く感じる。

パンの粗熱がとれて数時間もすれば、内側のクラムの香味成分(一般的には96%以上がエタノールで残りは数十種類以上の成分)は、エタノールや水分の蒸発とともに、外側のクラスト部分へも移り、全体に分散する。一方、クラストの香味成分は、焼き上がり後徐々にクラム部分に浸透していく。

このようにして、時間の経過とともに、クラストクラムの香りが混合されたパンの香りとなるのである。

クラストとクラム
クラストとクラムの香りによって複合的に織りなされる photo by iStock

サクサクしっとりでほんのり甘い食感の秘密

色、香りに魅せられて手にとったパンを、今度は実際に食べる段階では、その食感と味がさらに幸福感をもたらしてくれる。これにも外側部分のクラストと内側部分のクラムの違いがある。

クラストの食感は、パン生地の表面部分の炭化の度合によって厚みが変化する。薄ければ食感は柔らかく感じ、厚ければ硬く感じる。たとえば食パンの場合は「パンの耳」であるクラストの炭化が進めば進むほど、よりサクサク、カリカリといった食感となる。

また、クラストの味は、主にメイラード反応キャラメル化によってつくられた、やや焦げ臭のするほのかな甘味である。

一方、クラムは、加熱によって余分な水分が蒸発し、弾力のあるスポンジ状の組織に変化する。その弾力は、パン生地の小麦粉の種類、水分量の多少、生地をこねるミキシングの強弱や時間の長短などによって変わる。食感はその弾力に影響を受ける。

たとえばタンパク量の多い小麦粉を使用して、やや少ない水分量、比較的長く強めのミキシングをかけた生地で焼き上げたパンは、ほぼ弾力の強い食感になり、モチモチに。これとまったく逆の設定をしたパンは弾力が弱く、サクッと歯切れのいい食感となる傾向がある。

パンの味は、前述の、香りの要因となる物質によるものである。素材そのものからくる風味と、発酵や焼成の際の化学反応やその生成物からくる風味とが、複雑な味わいを作り出す。

素材そのもの、発酵、焼成などが風味を作る photo by iStock