ADHD、通院をやめたら息子への暴力が止まらなくなった母の悲劇

育てられない母親たち【19】
石井 光太 プロフィール

しわ寄せが幼い息子へ

これに待ったをかけたのが、夏央だった。彼は、明奈と離れたくない、と言い出した。彼自身もまた、心に弱いものをもっていて、明奈に依存しているところがあったのだろう。

夏央は言った。

「明奈と離婚したくない。いったん、息子を施設に預けて、僕が明奈の状態が良くなるように世話する。だからしばらく時間をちょうだい」

義祖父母は、結婚生活をつづけることは認めたが、世間の目を気にして施設へ預けることは許さなかった。その代わり、他県に暮らす親戚のもとに赤ん坊を預けたのである。周囲には、息子は病気で入院していると説明した。

 

それから1年が経った。

現在、実家で明奈と夏央は暮らし、息子は未だに親戚のところにいる。こうした事態になっても、義祖父母や叔父は、明奈が精神科に通うことを認めなかったため、感情の爆発が収まらないのだ。

明奈の言葉である。

「薬を飲めば落ち着くことはわかっているですけど、今はそれに頼るより、自分で治さなきゃって思っています。息子がいなくなってから、また夫に当たり散らしていますけど、夫はやさしいので何も言いません。しばらくは、これがつづくかなって思っています」

そうは言うものの、明奈は自分がどうすれば薬なしで落ち着くのか、わかっていなかった。

息子のところへは一度も会いに行っていないが、写真は定期的に送ってもらっているという。

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この事例からわかるのは、明奈が薬によってADHDの症状をある程度コントロールできていたということだ。

だが、両親が亡くなり、結婚して生活環境がガラリと変わった時、周囲の人々は明奈の抱えるADHDにも、その治療方法についても、理解を示さなかった。それゆえ、明奈は結婚後に症状を悪化させてしまい、子育てができなくなってしまったのである。

発達障害という言葉は、昔に比べれば広く認知された。だが、実際のところは、我が子が発達障害だと認められない親はたくさんいる。ましてや義理の両親ともなれば、尚更なのだろう。

明奈の家庭の場合、そのしわ寄せが幼い息子へいってしまったのである。

おそらく、彼女のケースでは、親子を分離させるだけでは何も解決しないのだろう。発達障害は風邪ではないので、数日経って自然に回復することはない。きちんと周囲が理解を示し、症状を和らげるための環境づくりをしなければならないのだ。

それには、明奈の家族の周りにいる人たちも含めて、もっと理解を深めていかなければならないだろう。周囲の無理解が、親族の無理解を生み出し、家庭の中で明奈や息子が孤立していくことになるのだから。

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