誰にでも「イノベーション」はできる。この方法論さえ身につければ

「なんとなく」を見える化する術
松波 晴人

WHO(世界保健機関)の調査によると、2004年の疾病負荷(寿命を縮める要因)の1位は呼吸器疾患、2位が腹痛系、3位がうつでしたが、2030年にはうつが1位になるとWHOは予測しています。

大阪大学のフォーサイト・スクールで学生たちが出す案も、「心の安定」につながるものが多いです。先ほどのRe:YOUのアイデアもそうですし、人と人がつながる消しゴムのアイデアもそうです。

消しゴムの場合、みんな本当はいろいろな思いや興味を持っていて、深い部分で語りあえるつながりを求めています。でも、ふだんは上っ面の会話しかしないから表面的なつながりしかできない。だから深い対話をしなくてもお互いの趣味がわかると簡単につながることができていいな、という発想です。

 

「心の時代」を生きるために

──松波さんご自身も、これからは「心の安定」だと感じられることがあったのですか?

松波: はっきりと「心の安定」と言葉にできていたわけではないのですが、その兆候は感じていたと思います。たとえば、ワーキングマザーの行動観察をしても、高齢者の行動観察をしていても、「心の安定」という観点でみるといろんなことが説明できます。

ワーキングマザーがいちばん必要としているのは、周囲の人からの理解や共感です。また、高齢者がいちばんうれしいのは、誰かに何かをしてもらうことではなく、自分が誰かに貢献できることです。でも実際には、高齢者に何かをしてあげるサービスはいっぱいありますが、高齢者が誰かに貢献する場を用意しているサービスはほとんどありません。

2年目になる今年のフォーサイト・スクールで出てきている案も、「心の安定」に関連しています。今年は人口減少が続く徳島県美波町をどう活性化するかということがテーマになっています。

最初は地域通貨をつくるという話からスタートしましたが、みんなで美波町に行ってフィールドワークをした上で議論する中で、町に係わる「関係人口」を増やすということが本質的な課題だということがわかってきました。そんな中、学生のみなさんが考えた案の1つが「人生インターン」です。

これは美波町の外から、例えば都会の人に美波町に来てもらって、3日〜1週間ほど美波町の農家など普通の家に住み込みのお手伝いのような形で滞在していただくサービスです。いつもの日常とは違った生活をすることで様々な気づきを得て、自分自身を見直し、最後に「これから自分はどうしていくのか」を宣言してもらうという形で具体化を進めています。

もともと四国にはお遍路さんがあるので、外の人を受け入れる文化があるということと、実際に美波町に行って、町に何人か「おやっさん(又は大将)」という存在に出会いました。「おやっさん」たちは、人間として非常にまっすぐなことを言ってくれる人達なんです。

たとえばお酒の席で若い男性に「お前、あの子にもう一回アタックせい、そうしないと絶対一生後悔するぞ」とアドバイスしたり、相手がどんな立場の人でも遅刻すると「お前、時間決めてあるんだからちゃんと来いよ」といったように、人間としてどうあるべきかということを正面から言ってくれるのです。

「おやっさん」と呼ばれる人たちは、人口が減っていく中でもありとあらゆる知恵と行動を駆使してビジネスを続けています。大変な苦労をされていると推察しますが、かなり手広くいろんな商売をされています。その「大将」「おやっさん」が言うことだから、ものすごい説得力があります。そして、「おやっさんたちは素晴らしいエネルギーの源だ」と思い至ったのです。

この案で重要なのは、「関係性のリフレーム」です。これまで、外部から人を呼ぶために農業体験などが実施されていました。それはそれで重要なやり方なのですが、この枠組における「外部から来る人」は、「地元の人」にとっては「お客さん」です。

でも、「人生インターン」の枠組では「外部から来る人」は「お客さん」ではありません。年齢的にも息子・孫ぐらいの差があり、農家の人やおやっさんから「疑似的な娘」「疑似的な孫」として学びを得るわけですから、むしろ「知恵を受ける側」になります。つまり、「外部から来る人」と「地元の人」の関係性が根本的に違うのです。

これはウィン・ウィンのサービスになりうると思います。「外部から来る人」にとっても、「美波町の地元の人」にとっても、お互いからの学びがあり、関係性が生まれ、心の安定につながると思います。

──方法論さえ学べば、誰でも新価値を生み出せるというのは心強い話ですね。そのときに、いちばん重要なものは何だと思いますか?

松波:まずは何よりもマインドセットですね。今回の本は、デザインをプロデュースいただいたziba tokyoの平田智彦代表と議論しながら創ったものですが、マインドセットが近い、ということがものすごく重要であるということを再認識しました。

自己効力感やチャレンジ精神というマインドセットを持ち、他者の自己実現のために頑張りたいという思いが共通しているが故に、コミュニケーションがすごく早い。新価値創造を成し遂げる道のりにはハードルも多いですが、同じマインドセットや思いを持った仲間と乗り越えていくことが重要だと思います。

松波晴人(まつなみ・はるひと)大阪ガス行動観察研究所・所長。株式会社オージス総研 行動観察リフレーム本部。大阪大学共創機構産学共創本部 招へい教員。1966年生まれ。神戸大学大学院工学研究科修士課程修了後、92年に大阪ガス入社。米国コーネル大学大学院にて修士号(Master of Science)、和歌山大学にて博士号(工学)を取得。2005年、行動観察ビジネスを開始。プロジェクト数は1000件以上。16年から大阪大学でForesight Schoolを主宰。著書に『ビジネスマンのための 「行動観察」入門』(講談社現代新書)、『「行動観察」の基本』(ダイヤモンド社)。