誰にでも「イノベーション」はできる。この方法論さえ身につければ

「なんとなく」を見える化する術
松波 晴人

──そうなると、価値がわかるかどうかはその人の「センス次第」ということになりませんか?

松波:そこで「センス次第」にならないために、方法論が必要なのです。

「プレゼントワーク」という、価値創造の簡易的な演習ワークがあります。九州でこのワークを実施したときには、ワークショップに30人ぐらい参加しました。その中から1人「プレゼントを受ける側の人」を選びます。このときは19歳の女性が選ばれました。そして、他の人たちは4つのグループに分かれて、彼女にインタビューをした上で、「何をプレゼントするか」を考えます。その際、予算は無限に使ってよい、とします。

その時にいちばん高額だった案は、「彼女に福岡ドームをプレゼントする」でした。でもその女性は「私、いりません。そんなものもらっても困ります」という感想でした。

福岡ヤフオク!ドームは、何年か前に福岡ソフトバンクホークスが870億円で買ったということがニュースになったように、客観的にはいちばん「価値がある」プレゼントかもしれませんが、その女性の主観では、「あまり価値のない」ものだったわけです。

彼女がいちばん喜んだのは、「プロダクションの人を紹介します」というプレゼントでした。彼女はタレント志望だったので、彼女にとってはそれがいちばん価値のあるものだったんですね。

結局、相手に喜んでもらうプレゼントをするためには、相手のことをよく知らないといけないし、その人の本当の欲求は何なのかを理解しないといけません。価値というのはそういうものです。結局のところ、人の主観を知るためには、人間の心理を深く理解することが必要になります。

それと同時に、送り手がどういう思いや価値を相手に届けたいと思っているか、がきちんとあった上でそれが伝えられれば、とてもいいプレゼントになります。

受け手のニーズと、送り手の思いが統合されたものが、最高のプレゼントでしょう。

 

「本質的な仮説」を見つけよう

──先ほども、フォーサイト・スクールが「インサイトを得る」ことを重視しているというお話がありました。たしかに『ザ・ファースト・ペンギンス』の物語の中でも、まずは観察して気づきを得るところから始まるわけですが、その気づきが何を意味するのか、「インサイトを得る」ことにすごく時間をかけている印象があります。

松波:そうですね。新しい価値を創造しよう、クリエイションをしようとするときには、こういう新しい製品を作ったらどうだろう、今までにないこういうサービスをしたらどうだろう、ということから考えようとする人が多いです。

しかし、それでは本質をとらえた「新しい価値」は生まれません。つまり、「答え」から考えるのではなく、気づきから始めて「本質的な仮説」を見い出すことが重要です。これは新価値創造で多くの人が誤解している点かもしれません。

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──物語の中でも、主人公たちがインサイトを得るために、延々と悪戦苦闘している姿が描かれていますね。

松波:今回の本では、主人公たちが社長の前で最終プレゼンをする「Re:YOU」という新価値の案が出てきます。

これは、「自分自身はどうありたいのか」「自分自身はどう思っているのか」といった自己理解をするための機器とサービスです。ユーザーの日々の感情の起伏をセンサーを使ってモニタリングすることで、ポジティブだったりネガティブだったりするユーザーの状態をとらえ、「そのときに何があったの?」「あなたはどう思ったの?」とRe:YOUが問いかけをし、それにユーザーが答えることで、カウンセリングをする仕組みになっています。

Re:YOUは指示をするわけではなく、ただただユーザーの話を聞く「聞き役」と、なんらかのフィードバックを返すことでユーザーの内省を促す「気づかせ役」をします。

じつはこれは、大阪大学のフォーサイト・スクールの学生チームが発案し、全国の大学や若手社会人が集まった「EDGEコンペ2017」(文科省補助事業)で優勝したアイデアです。

彼らがどうやってこの案に至ったかというと、ギリギリまでインサイトを出すことに専念していました。プレゼン前日の夕方まで、インサイトを得るための議論を延々としていたのです。インサイトが出るまで、具体的なソリューションは検討していませんでした。

そこで彼らが得たインサイトは、「現代人は他人とのコミュニケーション不足でフィードバックも足りないので、自分自身に対する関心を失っているのでは?」というものでした。このインサイトを得てから製品・サービスのコンセプトや仕様の提案をするまでは一気呵成でした。

──その前提となった気づきは、物語にも書かれている「休みの日にレストランで食事中に会話をしないカップル」というわけですね。

松波:ええ。日常でも「あれっ、これってどういうことなんだろう?」というところに、新しい発想の種がふんだんに存在していると思います。問題は、それらに気づけるかどうかです。

──そうして作り出した価値のなかでも、多くの人が求めるものが社会で欲せられる価値ということになると思いますが、松波さんが考える、これから社会で必要とされる価値とは何でしょうか?

松波: 以前、ある編集者の方から、大変興味深い「問い」をいただいたことがあります。こういう内容です。

「戦後の時代に、ある親が自分の子供に『これからはモータリゼーションの時代が来るから、自動車の勉強をしなさい』と言い、子供はその後自動車ビジネスで成功して財をなしました。その自動車で財を成した人は、次の世代である自分の子供に『これからはコンピュータの時代が来るから、情報技術の勉強をしなさい』と言い、その子供はITビジネスで財を成しました。さて、そのITで財を成した人は今、自分の子供に何を勉強しろと言うでしょうか?」

──それは難しい問いですね。

松波: 正解のない問いですよね。私がこの問いに答えるとしたら、「心の安定」について勉強しなさい、と言います。