がんの「余命宣告」の正しい意味を知っていますか?

患者さんの多くは誤解している
大須賀 覚 プロフィール

余命が起こす問題とは?

では、さきほどのデータをもとにして医師が15ヵ月くらいだと伝えたとしましょう。その場合、患者や家族は大体12ヵ月〜18ヵ月程度くらいかなという予想をおそらく立てます。しかし、この期間で亡くなっている方は20%程度しかいません。

ここで問題が起こります。この15ヵ月より早くに亡くなると、残された家族は医師の治療が悪かったのではと不満に思ったりします。逆に、30ヵ月以上たっても元気に生きておられる方は、15ヵ月でもうダメだと余計な失望を感じながら、暗い日々を送らなければいけなかったかもしれません。

結果的に余命を伝えたことで、医師は信頼を失うし、患者は余計な不安を抱えたことになります。実は、正確になり得ない余命告知をすることによって、医師・患者の両者とも損をすることになります。治療オプションが多いほど、生命予後が長くなるがんほど、このずれは大きくなります。

 

大事なことは今後に何が予想されるのかを聞くこと

自分や家族ががんと診断された時に、本来真剣になって聞くのは余命ではありません。余命は正確に今後を予想する指標にはなりにくいものです。それよりも聞くべきことは、さきほど言ったような治療の分岐点(再発・追加治療など)がどのようなもので、それがどのようなタイミングで起こるかです。

たとえば、最初の標準治療を受けて、その後再発が起こるのは何%くらいの人なのかや、それは何年目に起こるのか、もし再発が起こったら、どのような治療手段があり、それはどのような効果があり、どのくらいの期間安定した状態を保てるのかなどです。

それらの治療の分岐ポイントはどういうものかを把握することで、自分の治療の全体像を時間軸を含めて知ることができます。そして、実際の治療をしていく中で、今後についてもある程度の把握と予想をしながら進んでいくことができますので、不安感が軽減されます。

分岐のイメージ
  患者は、治療の分岐点(タイミング)を聞くことが大切 photo by iStock 

しっかりと話を聞けば余命を聞く必要はなくなる

私が脳神経外科医として、脳腫瘍患者への病名告知をしていた際には、「先生、余命はどのくらいですか」と良く聞かれました。

その時は、まず最初に治療の分岐点やタイミングなどの話を詳しくします。そうすると、ほとんどの患者は「良く分かりました。その話を聞くと、現時点ではどのぐらい生存できるのかなんて予想できないですね」と理解してくださって、余命を聞く意味がないことを理解してくださいます。

もし、どうしても聞きたいという場合でも、さきほどの例であれば、大体4ヵ月から30ヵ月です、というように、とても広い幅があることを伝えて、間違った理解をしないように促していました。

医師と患者間でしっかりコミュニケーションをとれば、余命を聞く必要は自然となくなることが多いのです。