がんを発見する線虫も登場…最先端「虫医療」の世界

覆面ドクターのないしょ話 第16回
佐々木 次郎 プロフィール

95%の精度で複数のがんの存在を検出する「虫」

では次に、がん検診に役に立つ寄生虫についてお話しいたします。

読者の皆様、市区町村のがん検診を受けていらっしゃいますか?

がん検診とは、住民からがん患者を選別する集団検査のことで、スクリーニングである。検査方法は、一度に多数の人を検査でき、簡便で侵襲(体へのダメージ)が少ないものが理想的だ。

 

たとえば、便検査は、便の採取に痛みも苦痛もない(=侵襲が少ない)ので、検診には適している。だが、便検査では出血の有無しかわからない。出血がある場合、潰瘍・がん・痔からの出血を疑い、がん患者を絞り込むために次の検査をするのである。つまり、便検査だけでは、がんかどうかはわからないということだ。

一方、胃の内視鏡検査は、がんの診断には優れた検査だが、検査の際に「オエッ」となるなど苦痛を伴う(=侵襲がある)。さらに、一人の医者がこなせる患者数には限界がある。

これに対して、興味深いがんの検査法が発表された。寄生虫を使ってがん検診をするという方法である。

一般によく知られた寄生虫は、体型がミミズのような線状のもの(回虫など)で、これを総称して線虫という。特定の線虫には、がん患者の尿に近づく性質のあることが、線虫研究の第一人者である広津崇亮先生の研究で発見された。線虫の名前は、カエノラブディティス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)、通常は、シー・エレガンスと呼ばれる……優雅な名前である。

線虫によるがん検査は、患者への負担が少なく、安価で、しかも、従来の検査では見つけにくかったがんを早期のうちに発見できる可能性が高いと期待されている(photo by istock)

この性質を応用すれば、一度に多数の人を検査でき、安価で簡便で侵襲が少ない検査(たった一滴の尿だけ!)という、理想的なスクリーニングを行うことができる。

この線虫は、早期のがんにも反応し、95%以上の精度で、胃がんや大腸がんなとの消化器のがん、その他、乳がん、肺がん、前立腺がんなど複数のがんの存在を検出できる。

がんの存在を指摘されたら、病院でさらに詳しく血液検査やCT検査などの精密検査を受ければよい。

この線虫を用いたがん検診は2019年末の実用化を目指しているという。寄生虫がわれわれ現代人に福音をもたらす日も近い。