2018.05.13

鎮痛薬を飲むと、むしろ悪化する片頭痛があるのをご存知ですか

「薬物乱用頭痛」の恐ろしさ
坂井 文彦 プロフィール

脳の痛みの番人が働かなくなる

薬物乱用頭痛の研究でわかったことは、鎮痛薬を飲み過ぎると脳の痛み調節系(脳の痛みの番人)がさぼってしまう、機能しなくなるということです。

脳内には中脳や扁桃体に痛み調節系があり、痛みを自分の脳で調節しています。セロトニンやエンケファリンといったいくつかの脳内物質が痛み調節系を働かせていますが、鎮痛薬の飲み過ぎは脳の痛みの番人をさぼらせてしまいます。

脳の痛みの番人が働かないとちょっとした痛みにも過剰に敏感に感じてしまう、そうしてまた痛み止めをのむ、という負の連鎖が生じます。こうなると、痛み止めの効かない頭痛が生まれることになります。

さらに最近の研究では、片頭痛の特効薬として開発されたトリプタン系のクスリによっても薬物乱用頭痛の起こることがわかってきました。

トリプタン系のクスリは片頭痛で拡張した血管をもとに戻して頭痛を改善する、片頭痛のメカニズムに作用するクスリです。痛み止めではありません。医師が片頭痛と診断して、処方してくれます(スマトリプタン、ゾルミトリプタン、エレトリプタン、リザトリプタン等)。

医師は「片頭痛が始まったら、早めに飲んでください」と説明してくれますが、勘違いしないで下さい。頭痛が始まってから早めに飲む薬です。いつ片頭痛が起こってしまうかが不安になり予防的に飲みがちですが、トリプタンも飲みすぎると薬物乱用頭痛を起こします。効き目が良い薬だけに、止めるのに苦労します。

また、トリプタンを片頭痛が始まる前に飲んではいけない理由がもう一つあります。まだ拡張してもいない血管をトリプタンで収縮させると、反動で血管が拡張しひどい片頭痛を起こすことがあるからです。

 

薬物乱用頭痛にはもちろん鎮痛薬は効きません。治療法は鎮痛薬をやめるのが大原則ですが、なかなか止められなくて厄介です。「薬物乱用」と呼ばれるゆえんです。

学会の討論でも、「治療薬を強制的に断薬(デトックス)させることが必要か」、逆に「片頭痛予防薬を使いながら、徐々に鎮痛薬を減らすか」、いずれの治療法が優れているかがよく議論されます。

それぞれ、治療法に工夫と努力をするわけですが、多くの専門家の判断では入院治療による「デトックス」派が優勢のようです。

私も入院治療を行うこともありますが、できるだけ外来通院で鎮痛薬の漸減作戦を行います。眠っている「脳の痛みの番人」を何としても活性化させ、痛み調節を自分の脳でできるようにしたいからです。鎮痛薬を飲まない動機づけが必要です。

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脳の痛み調節系に良い刺激を与えるために、正しくクスリを服用すること以外の治療法として鍼、ヨガ、運動療法などがあります。中でも私が考案した1日3分行うだけでよい「片頭痛体操」「肩こり体操」は継続することで相当の効果が期待できるのです。

このたび、私は『片頭痛からの卒業』(講談社現代新書)を上梓しました。頭痛薬との正しいつきあい方や、「片頭痛予防体操」はじめ自分でできる片頭痛の慢性化を避ける方法なども詳しく書いていますので、ぜひご覧いただければと思います。

自己流でクスリを飲み過ぎることだけは、絶対に避けなければいけません。

「片頭痛」卒業のためのクスリとのつきあい方、自分で予防する体操の方法などを網羅する坂井氏の近著
坂井文彦(さかい ふみひこ)
埼玉国際頭痛センター長。1969年慶應義塾大学医学部卒業後、同内科学教室に入局し、神経内科および脳循環・代謝の研究を始める。76年米国ベイラー医科大学神経内科留学。Harold G. Wolff賞受賞(片頭痛と脳循環の研究)。97年11月北里大学医学部神経内科学教授。2010年11月より埼玉医科大学客員教授、埼玉国際頭痛センター長として日本初の頭痛専門病院を立ち上げる。日本頭痛学会、国際頭痛学会の理事長など重職を歴任した頭痛治療の世界的名医で、長年にわたり、日本の頭痛医療を進化させてきた。「頭痛そのものが脳の病気」「薬を上手に使うことでコントロールできる」「頭痛ダイアリーは必ずつける」「片頭痛予防体操で慢性化を防げる」等、啓蒙活動に尽力。監修書に『きょうの健康シリーズ 頭痛で悩む人に』(NHK出版)がある。このほど『「片頭痛」からの卒業』(講談社現代新書)を上梓した。

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