撮影:村上庄吾

認知症に「性欲ギャップ」…高齢者の性を巡る深刻すぎる問題

田原総一朗×宋美玄

高齢者の「性の問題」を辿る

ちょうど一年前の5月19日に放送されたNHK『クローズアップ現代』が、ネット上を中心にとんでもない反響を起こしたことをご存じだろうか。テーマは「高齢者の性の悩み」、ゲストはジャーナリストの田原総一朗氏と、産婦人科医で性科学者の宋美玄さん。

NHKが高齢者の性について真っ正面から取り上げたことも注目を集めたが、それ以上に、高齢男性で風俗店を利用している人が増えているという話題の中で、田原氏が「風俗店に行って、彼らは本番以外に何をやるの?」と尋ねたり、番組アナウンサーに「あなた、奥さんとセックスについて話すの?」と質問したり、と性についての直球質問を行ったことが、視聴者の驚きを買ったのだ。田原氏の質問にひとつひとつ丁寧に回答する宋さんの姿も話題になった。

この4月で84歳を迎えた田原総一朗氏。1983年には、当時の最先端の「性の世界」を描いたルポルタージュ『セックスウォーズ』を著したが、それから35年、再び「性のいま」についての興味が、田原氏のなかで高まっている。特に、「高齢者の性」については、日本社会がほとんど真剣に向き合ってこなかったテーマだけあって、田原氏の問題意識も強い。

「高齢者の性」を巡る様々な問題を、田原氏と一緒に辿っていこう。

まずは、「番組のあの短い時間では、まったく話し足りなかった」ということで、宋さんを訪ね、高齢者の抱える性の悩み全般についてを伺うことにした――。

 

枯れない欲望

私は、実は35年前(1983年)に、週刊文春で「セックス・ウォーズ」という連載をしたことがある。(『飽食時代の性 セックス・ウォーズ』というタイトルで、文藝春秋から書籍も刊行された)

その中で、中高年の性の問題を取材した。

たとえば、「総理府の調査で、この10年間に離婚率が最も増えたのは、40~44歳(2.4倍)で、二番目が45~49歳となっている。また厚生省の調査でも、これまで離婚率が最も高かったのは、結婚生活1、2年と決まっていたのだが、最近は10~20年組が1位となり、20年以上組も急増しているようだ。こうした数字を見ても、一般に夫婦の間が最も安定すると思われている我らが世代(筆者注・当時私は49歳)に、尋常ならざる異変が起きていることは確かなようだ」と、私は書いている。

また、この書で、

「この数週間、十数人の中高年たちに会って、彼らの『性の世界』を執拗に訊き出すという作業を続けた。

その結果、それぞれに『流儀』は異なっているが、例外なく一つのパターンに収まっていることがわかった。

私が、会った中高年の男性の大半は、多い少ないの差こそあれ、妻以外の女性との体験を持っていた。むろん、妻以外の女性との体験を現在も持続しているケースも少なくなかった。だが、その誰もが、会社=仕事、家庭=妻と、情事とのバランスを懸命にとりつづけ、情事によって家庭や仕事が壊れないように、それぞれに高い堤防を張り巡らしていた。

セックス・マッサージ、女装クラブ、あるいは『メルヘンの部屋』などを持つことによって、なんとか心身のバランスを保っている中高年ビジネスマンたちも、愛人バンクではじめて生きる喜びを見つけたダメ中年も、いずれも家庭=妻には極秘で、それぞれ懸命に内と外とを使いわけていた」

とも書いている。

ところが、厚生労働省の「2012年 人口動態統計」によると、この年に50歳以上で離婚した人は、男性3万5866人、女性2万2747人で、1970年からの40年間で10倍以上に増加しているのである。私が取材した時期よりも、離婚率が高い世代が高齢化しているわけだ。高齢夫婦の間で、容易ならぬ事態が生じているということであろう。

日本性科学会セクシュアリティ研究会編の「セックスレス時代の中高年『性』白書」(2016年刊)によれば、配偶者のいない60~70代男性の78%、女性の32%が性交への願望を抱いているということだ。高齢になっても性交への願望は枯れていないのである。

ところが、この白書で、60~70代男性の約4割が、「妻」の欲求が自分より乏しすぎると答え、女性の約3割が、「夫」の欲求が自分より強すぎる、と回答している。つまり夫と妻の間に、確かな性欲ギャップがあるわけだ。このギャップが、さまざまな問題、ときには深刻な事件を生じさせていることになるわけだ。

いま、高齢者の性に何が起きているのかを知りたい。そこで、まず、『女医が教える本当に気持ちのよいセックス』『大人のセックス 死ぬまで楽しむために』などの著書のある女医で性科学者の宋美玄氏に、高齢時代の性の問題について話を聞くことにした。