金正恩が核放棄後にいきなり直面する「最も深刻な問題」

100万人超の軍人をどうするつもりか
李 英和 プロフィール

改革開放でも本質は変わらず

北朝鮮経済が、核ミサイルという病巣を一刻も早く取り除くという外科手術が必要になっている上に、窓の外には海上封鎖と軍事攻撃の暴風雨が迫っている。

金正恩は潮時を見計らい、核放棄を決断した。

元来、金正恩が執権当初に打ち出した、核と経済の「並進路線」の狙いには、短期と中長期の区別があった。

核ミサイル開発は短期の生存戦略で、中長期の生存戦略は経済再建にあった。筆者は2年前、「並進路線の力点は後者の中長期的な経済再建策にある」と見立て、その上で次のように予測した(「『反中国の怪物』になった金正恩」、『Voice』2016年5月号)。

「駆け込みで核・ミサイル実験を強行し、核弾頭開発に一定の目処を付ける。そして対話攻勢に転じて制裁局面の打開を図る」、「(核ミサイルを)押し売りして、米中両大国を天秤に掛け、経済再建の血路を切り開く算段である」と。

 

その意味では、核放棄はノーベル平和賞に値する「世紀の英断」では決してない。金正恩の策略の「想定内」だ。

金正恩は今年4月20日、労働党全体会議で核開発と経済再建の「並進路線」の総仕上げを宣言。それに代わる「新たな戦略路線」と称して「経済建設総力戦」を打ち出した。

そこで金正恩は「国家核戦力を(執権後)5年間にもならない短期間で達成した」と自画自賛する。専門家の多くはこれを「核保有国宣言も同然」と読んで強く警戒した。だが、率直に言って誤解だ。注意深く文脈の行間を読めば、婉曲話法の「非核化宣言」である。

金正恩は体制の生き残りを懸け、核放棄よりも困難で危険な道に踏み出す。北朝鮮式の改革開放政策だ。

もちろん「経済建設総力路線」とは言え、金正恩が並べ立てる美辞麗句に油断は禁物だ。「恒久平和」や「平和愛好的立場」は偽物、「人民生活を画期的に高める」のも本意ではない。

金正恩の真の狙いは経済発展を通じた「軍近代化」にある。核は捨てられても、北朝鮮主導での「南北赤化統一」の国是は捨てられない。

鄧小平の改革開放政策を手本に、最新兵器で重武装した将来の北朝鮮軍を夢見る。中国がその道に要した40年間を、後発メリットを最大限に生かして圧縮すること。これが金正恩の稼ぎたい「時間」の正体である。

それでも、この先10年ほどを見通せば、金正恩の率いる北朝鮮は、捲土重来の再起を期して、静かに息を潜める。その間、全方位での「平和愛好的」な外交を進める。

経済再建のためには、経済制裁の解除だけでは不足だ。周辺諸国から経済支援を最大限に引き出し、さらに経済交流を活性化させる以外にない。当然ながら、その相手国には日本が含まれる。