2018年4月8日松山刑務所の大井造船作業場から受刑者一人が逃走した。
日本における刑事施設からの逃走事件は数時間で身柄拘束できることがほとんどであるが、2週間で愛媛・広島県警が延べ1万人を動員しても逮捕できず、4月30日にようやく広島駅近くで身柄拘束された。
逮捕されるまで22日を要し、その間、かなり大きく報道された。
上川法務大臣が陳謝したことからも、不祥事のように理解されていると想像するが、実は、解放処遇刑務所から逃走者が出るのは「当然」の出来事というか、失態ではない。
この多くの国民にとって驚きの仕組みを説明することには意義があると考え、以下に試みてみたい。
こう述べると、次のような話を期待する人がおられるかもしれない。
海外と比較して、逃走者は極めて少なく、ひとりの逃走者も出してはいけないという非理性的で感情的な議論はけしからんという理屈である。その話ではない。
もっと踏み込んで、開放施設からの逃走者が少ないことが問題であるということが私の結論である。
この理屈は、私のオリジナルではないどころか世界の刑事政策の常識である。ゆっくり説明したい。
刑事政策は、理論であるよりも経験知である。
真っ先に、実態を見ておこう。
刑事施設からの逃走が年間1万を超えていたのが、ようやく千の単位というアメリカは全くの失敗例として除外し、有力なヨーロッパ諸国の数字を確認しよう。
公式統計を比較できる2014年の1年間の逃走人数の統計を整理してくれている、欧州評議会の年報「Council of Europe Annual Penal Statistics, Space I-Prison Population, Survey2015.(2017年4月刊)」によれば、24時間監視されている施設および護送中の逃走と、受刑者に一定の自由が与えられている解放処遇や、一時帰宅中に姿をくらました人数は次ページの表のごとくである。
この数字の比較は簡単ではない。
総人口比で比較する必要があるが、そもそも受刑者が多い国とそうでない国があり、さらに、中間処遇とまとめられる、24時間監視ではない自由刑を多用する国とそうでない国がある。
中間処遇の受刑者の逃走が多い国は、中間処遇を多用している国である。ヨーロッパ諸国を、中間処遇の逃走者が受刑者あたりで多い順に並べた結果、4つのグループに分けられそうである。