女性のケガレって何…? 土俵の女人禁制は「出産排除社会」の原型だ

「中途半端な伝統」はもうやめよう
落合 恵美子 プロフィール

この「死のケガレ(死穢)」と並ぶ重大なケガレが「産のケガレ(産穢)」である。

死穢を「黒不浄」、産穢を「白不浄」と呼び、もうひとつ月経のケガレである血穢の「赤不浄」とあわせて「三不浄」と言う。このうちの二つは女性にかかわるものなので、女性のケガレは深刻なのだという。

大相撲問題でも、救命のために専門職の女性が上がった土俵に塩がまかれ、土俵は神聖な場所なのでという説明が繰り返されたように、死者に触れたのと同じくケガレた存在として女性が扱われたのは明白である。

それでもお産が死と並ぶケガレだとはピンとこない人が多いと思うので、福井県敦賀市での聞書きから実例を紹介しよう。

彼女たちの会話を聞きながら気づいたのは、「かなしかったのは」という言葉が、誰からも、幾度も繰り返されたことである。
例えば、産小屋へ入る時、お日様に遠慮しろと言われ、板笠を冠せられて歩いて行ったこと、産小屋で赤ん坊のおむつを洗うため、道を通る人に頼んで水を汲んで貰わねばならなかったこと。産後24日目に、出産に使った藁などを、自分で背負って行って地面に埋めなければならなかったこと。生理中1週間は、家の中で食事をさせて貰えず、冬でも外で食べたこと(田中光子『ふくい女性史』フェニックス出版、1972年)。

白木という地区に暮らした明治38年から大正8年生まれの女性たちの聞書きである。

お産と月経はケガレとされ、家の火を穢さないように煮炊きの火を別にせねばならず(別火)、水を穢さないように水汲みも自分ではできなかった。

 

産小屋とは、お産をした女性を隔離するための施設である。忌明けまでの期間、ここで生活する。月経中の女性も産小屋で過ごすこともある。

全国的には産小屋のある地域と無い地域がある。

産小屋があるのは暖流の流れる海岸沿いの地域に多いとされる。産小屋が無い地域では土間や納戸など特別な場所で出産することが多い。納戸とは夫婦の寝室に使われた薄暗く開口部の少ない部屋である。

お産はひとりですることもあれば、村の女性たちが立ち会った場合もある。

村や親族の手慣れた女性が介助の役割を果たすこともあれば、専業化した産婆(トリアゲババ、コナサセババなどと呼ばれた)がいた場合もある。

お産はケガレということから、それを扱う産婆が賤業視された地域もあったという。

お産に立ち会う神様

しかし、この白木での聞書きには意外な続きがある。

「かなしかったのは」という言葉と共に、この老婆たちの口から繰り返し洩れたのは、「お世話になった」「神さんのおかげで」という言葉であった。……
「お産はありがたーいもんや。神さんがいらっしゃるんやゆうて、台所の男座で、お日さんの出やっしゃる方を向いて産んだんですわ」と彼女は付け加えた。……
「六人も七人も子供を産んでも、あらたかなおぼしなさんのお陰で、誰一人難産するものもなしになあ。ありがたかったなあ。」(同)

「おぼしなさん」は「うぶすなさん」の訛りで、産土神(うぶすながみ)をさすというのが著者の注釈である。

――ここで、不思議だ、と思わないだろうか。お産はケガレなので忌明けまでは神社の参拝もできないはずだ。

しかし、お産の場には神様がいらっしゃるという。