「宿命」は変えられるのか?「脳は環境が作るか、遺伝子が作るか」問題

日本人の脳に迫る②
中野 信子 プロフィール

真面目さが日本人の長寿の秘密?

さて、反社会的行動を促進する形質や、幸福度を高める形質について、詳細は次回以降にまた譲るとして、これらは『性格遺伝子』と一括りに呼ぶことのできる、脳内に分泌される神経伝達物質の動態を決める遺伝的資質によってかなりの部分が決まっています。

例えば反社会的行動であれば、ブックホルツとマイヤー、またニルソンらによる研究から、モノアミン酸化酵素(MAOs)の活性の違いによって説明できることが示されてきました。活性が低いタイプのモノアミン酸化酵素の遺伝子を持っている人ほど、放火やレイプなど、衝動をコントロールする力が欠如していると考えられる性質を持っていたのです。

また、幸福度の高さに関しては、どれくらい陽気で楽観的な性質かと言い換えてもよく、セロトニンの動態と深く関係しています。また真面目で慎重であることと悲観的であることも同じ生理的基盤を共有していると考えてよいでしょう。

 

セロトニンの動態に関しては、日本人はやや特異的な性質を持った集団ということができます。真面目さや幸福度の低さにかかわる『性格遺伝子』に着目すると、世界的にみても特色のある割合になっているのです。どちらかといえば悲観的になりやすく、真面目で慎重であり、粘り強い人たちであることを示す遺伝的性質を持っています。

ところで、幸福度を高めてやることがその人の寿命を縮めることになりかねない、という考え方はパラドキシカルで、やや独特な感じがすると思いますが、私は個人的にこのパラダイムを非常に気に入っています。

この考え方を支持する根拠となる、スタンフォード大学のターマンのリサーチがあります。1921年に開始され、80年の間調査が続けられ、弟子のフリードマンがその研究を完成させたものです。研究では、10歳前後の児童1528人を対象に性格を分析し、その後どのような人生を歩んでいくのか、5~10年おきにインタビューが行われました。

その結果、まずは定期的な医療検査や適度な運動、サプリメントや緑黄色野菜の摂取などは長寿に関係ないことがわかりました。肉体的な健康を保持するための努力はあまり意味がなかったということでしょう。

一方、長寿者には共通する「性格」が見つかりました。良心的で、慎重であり、注意深く、調子に乗らない。いわば真面目で悲観的な性格を持っていることが、長寿との相関が高かったのです。

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逆に、長寿でなかった人に共通するのは、陽気で楽観的であるという性格でした。調査では01年の段階で、男性の70%、女性の51%が他界していましたが、この真面目さのスコアの低い人が最も多く亡くなっていたのです。

このデータが示しているのは、本人にとってはつらく感じられるかもしれない「真面目で悲観的な性格」が、実は本人の命を守るための性質であった、というごくシンプルな事実です。慎重で、リスクをきちんと見極め、それを回避できる能力を持っている、ということが長く生き残るためには重要な性質である……考えてみれば当たり前の話かもしれません。

ただ、私たちの脳は、そんな単純なことさえ冷静に考えてみることが難しいほど、日々のタスクに追われ、ひとつひとつの出来事に翻弄されてしまいます。

瞑想が大脳新皮質の容積を増やすという研究もあるようです。時には、遠くから自分のことを客観的に見つめ、自分の心の動き、脳の働きについてしみじみと思いをめぐらせる時間を持つのも悪くないのではないでしょうか。