「宿命」は変えられるのか?「脳は環境が作るか、遺伝子が作るか」問題

日本人の脳に迫る②
中野 信子 プロフィール

「幸福にしてやろう」は非人道的…?

二卵性双生児のデータを見てみると、一卵性双生児とは異なり、お互いの幸福度はあまり似通っていませんでした。このデータは、幸福度はひとりひとりあらかじめ遺伝的に決まった設定値が受け継がれているのであり、環境要因の影響を受ける部分はごくわずかである、という主張を支持するものです。

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「幸せな双子の研究」から、一卵性双生児の幸福度がほとんど同じであり、環境要因の影響を受けにくいということがわかったわけです。他にも多くの双子研究が行われていますが、その結果から、双子について研究している近年の研究者たちは「幸福度は少なくとも50%が遺伝的に決まる」と考えています。

膨大な双子研究のデータには、一卵性双生児であるけれども幼いころから養子として別々の家庭で育った、という条件の被験者の情報も含まれています。まったく異なる環境で、お互いの存在さえ知らなかったのに、学校の成績や職業、乗っている車の車種、好きなタバコの銘柄、離婚歴、果ては妻と子どもの名前(好きだから名づけた)まで一緒だった双子の例も知られています。

 

ものごとに対する感じ方や考え方の大きな部分が遺伝する(遺伝の影響を大きく受ける)というのは非常に興味深い知見と言えるでしょう。

このことを前提とすると、毎年のように話題になる国連の世界幸福度報告での「日本人の幸福度の低さ」についても、対応策の講じ方が変わってくるはずです。その生理的な特質により、日本人の幸福度は、ある一定以上高めることは難しい、ということをあらかじめ知ったうえでなければ多くの努力は無駄になってしまうことでしょう

そもそも幸福度が高くなりにくい性質をわざわざ保持している人たちがマジョリティとなるような集団では、幸福度が高いことが生存に不利になる可能性があることを考慮すべきです。

にもかかわらず、敢えてそのありようを変更させて幸福度を高めてやろうとするのは、せっかく環境に適応している個体に対して、外部から無茶な操作を加えてバランスを崩すということにもつながります。

「『幸福』にしてやろう」とその個体に強制的に生存・繁殖上、不利益となる行動をとらせようとする、非常に極端な言い方をすれば、非人道的な行為とも言えるわけです。