『我々はなぜ我々だけなのか』が科学ジャーナリスト賞2018受賞!

この本はなぜ世界でこの本だけなのか?
川端 裕人 プロフィール

人類進化の研究者は「ストイック」

――この作品の大きな特色は、著者である川端さんが、海部さんという研究者と、ときに人類学の基本的なところを再確認したり、ときには最新の研究成果を発表の直後に知らされたりという、非常に濃密なやりとりがベースとなっているところにあると思います。

海部さんとのやりとりのなかで印象に残っていることはありますか。

川端 研究者って、ストイックなんですよね。

これはとくに海部さんがそうなのかもしれないし、人類進化学って妄想をたくましくすればなんでも言えてしまうところがあるから、研究者はとくに謙虚に、飛躍をせずに、というふうなところがあるのかもしれません。

逆に、何か新しいことを言うときには、これでもか、というくらいの証拠固めをします。ここまでやったらここまで言える、といったせめぎあいは、話を伺っているだけでも手に汗を握りました。

あと、人類進化の研究者は「秘密」が多いです。もうわかっているけれどまだ言えないこと、というのが結構あるんですよね。だから、何度もお話をするうちに、「あ、これは、今は言えないことがあるんだな」と察するようになりました。それがやがて論文になって発表されて、なるほど、そうだったのか、とわかるわけです。

とくに、2016年にソア盆地から、70万年くらい前の小型人類の化石が出たときのことが印象深いです。『Nature』誌に論文が発表される3ヵ月前にぼく自身、フィールドを訪ねて、インドネシア側の研究者から「誰にも言わないなら見せてやる」と、論文のほぼ完成版を見せてもらったんです。

「あわわ、こんなのが発見されたのか」と興奮して、でも誰にも言えず……いざ論文が出たときは、やっとおおっぴらに人に話せる、とほっとしました。

発見を論文にして報告するというのは、研究者にとってはとてもベーシックな営みですけど、外からはそのプロセスはわかりませんよね。たまたま海部さんからもインドネシアの研究者からも話を聞けて、ちょっとの間、秘密も共有して、その片鱗を垣間見ることができたのも楽しかったことのひとつですね。

――このように、研究者に導かれながら執筆するという形式については、どのようにお考えですか。

川端 やっぱり、緊張感があります。ぼくにとってこの形式は、『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミア新書)で、マックスプランク宇宙物理研究所所長の小松英一郎さんとの著作(共著)でやって以来、2回目なのですが、とにかく、素人であるぼくが理解できるぎりぎりのところまでがんばって理解する、というのが基本になるので。

その際に、研究者からどれだけのものを引き出せるかというのは単純に、ぼくが素人なりに努力して準備したことに比例するように感じています。つまり、こっちが本気を出せば、相手も本気で応じてくれる、みたいなイメージです。

どちらにしても、しつこく聞きまくっていたと思います。根気強く応じてくださった海部さんに感謝です。

科博のCTスキャン用室
国立科学博物館で行われた化石のCTスキャンも取材で立ち会うことができた

「二刀流」の執筆活動がなぜ可能なのか

――川端さんのように、小説家として活躍する一方で科学書も書くという人は、まだ日本に多くはいません。いわば「二刀流」の大変さのようなものはあるのですか。

川端 ぼくの場合、これまで書いてきたものは小説のほうが多いんですが、それなりにノンフィクションも書いてきたので、フィクションとノンフィクションをどのように区別しているのかとよく聞かれます。

でも、そのあたりは、まったく悩むことがないんですよね。どっちのアウトプットのほうが面白くなるか、というのが第一。素のままで面白すぎるとか、事実は小説より奇なりというようなケースなら、ノンフィクションにしますよね。

それと、ストレートに訴えたいことがある場合も、ノンフィクションのほうを選びがちです。ぼくは「PTA問題」についての本を書いたことがあるんですが、それもノンフィクションです。

小説にしたい時というのは、「その先」を書きたいんです。実は、PTA小説の企画はずっと前からあって、でもストックしたままなんですけど、もしも書けたなら

「本来、入退会自由で、強制などないはずなのにみんなが自主的に入っているというまさに”光のネットワーク”みたいなPTAが日本全国を覆い尽くし、全世界にも波及したらどんな未来が待っているか」

などということをきっと書くのだと思います。ちょっと飛躍して、極端なところまで推し進めた思考実験をしたくなるんです。

でも、本書の場合は、飛躍なんてするまでもなく「素のままで面白すぎる」事例です。素材があまりにもエキサイティングなので、とことんストイックにやったつもりです。飛躍したければ、いずれ小説の中でやればいいので。

――では最後に、これから挑んでみたいテーマについてお聞かせください。

川端 人類進化については、何年かたったら、また戻ってこようと思っています。

今はいろいろインプットする時期で、ノンフィクションをいくつか書くことになっています。「21世紀の動物園の役割」みたいな話を、ニューヨークのブロンクス動物園の本田公夫さんと書いているところですし、それが終わったら、「色覚のサイエンスと色覚異常」ですとか、「17世紀、絶滅する前のドードー鳥が生きたまま日本に来ていた」という話もノンフィクションで書きます。

もうすっかり取材は済んでいるんですけど、手が空き次第、順次やっていく感じです。

小説のほうでは今、ブラインドサッカーのシリーズものを書いていて、それは年内に新刊が出ます。それと、最近は「選挙特番小説」や「ネットメディア小説」を書きたいなあと思ったり、なんだか我ながら、支離滅裂ですね(笑)。

こんなふうに関心が拡散していってしまうので、ぼくは何か作品を書くたびに1作品1ジャンルみたいになってしまって、印象が希薄になってしまっている気がします。
「単に好きなことを好きなようにやっていたいんでしょ」と言われたら、まさにその通りなんですけどね。

とすると、今回の受賞は、やはり「よくぞ見つけてくださいました!」という類のものです。これを励みに、これらかもやりたいことをやりたいようにやっていきたいですね。

 ★ 2018年科学ジャーナリスト賞受賞作品 ★ 
 ★ 第34回講談社科学出版賞受賞作品 ★ 

我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち

著:川端裕人 監修:海部陽介  定価:1,000円(税別) ISBN978-4-06-502037-1

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