シリア難民支援で最先端のブロックチェーンが使われている深い理由

評価の定着を待ってはいられないから
エミリー・パーカー, LONGHASH プロフィール

ブロックチェーンもすべての「特効薬」ではない

そうなると、プライバシー上の懸念が浮上する可能性もある。だがブロックチェーン取引の恩恵のひとつには匿名性がある、とハダッド氏は指摘する。たとえば、ビットコインのブロックチェーンでは、誰でも見ることができるオープンなアドレスと、自分の秘密パスワードである秘密鍵が存在する。アドレスは長い文字列であり、ユーザーの本当の名前とは関連がない。ビットコインのブロックチェーンでは、必ずしも誰が実行しているのかを知らないまま、取引を閲覧することができる。

 

「IDなどすべてが記載されたパスポートの1ページの写真を撮り、それを我々がブロックチェーンに貼り付けて、誰もが見られるようにしていると思っている人たちがいます。しかし、まったくそういったものではありません」と、ハダッド氏は言う。それでも、ブロックチェーンはプライバシー対策の特効薬ではない。十分な努力とリソースをもってすれば、取引を分析することによって、利用者の正体を突き止めることはできなくはない。

ハダッド氏も、ブロックチェーンに難民の苗字や生年月日、住所や宗教といった、とくにセンシティブな情報を含めることには注意しなければならないと認識している。「正気であれば、誰もそんな情報をブロックチェーンに載せるべきだと主張しないだろうけれど」と、彼は言う。

その代わりに、ブロックチェーンにはもっと実用的な情報を含めることができるだろう。たとえば、<この人は18歳以上であって、家族の代わりに買い物ができるとWFPから許可されている>というような。そのブロックチェーンでは難民の本名を保持しない代わりに、ある人物が18歳以上であるという情報と関連付けられた公開アドレスのようなものを含んでいればいいのだ。

技術的には楽観、政治的には…?

ハダッド氏は、今後5〜10年でWFPが難民たち自身に秘密鍵を渡し、難民たちが自分のデータを管理して、携帯電話でそこにアクセスできるようになることを目指しているという。

そこには技術的な困難も、そうではない課題もある。前出のオップ氏は、ブロックチェーンのアイデアをすぐに気に入り、受け入れた人々もいた一方で、「いかなるイノベーションも、官僚的な組織の中では、さまざまな反応を生み出すものです。疑念や抵抗、あからさまな憤りまでもね」と話す。

一方でオップ氏は、WFPが最高クラスの給与を払えないとしても、ブロックチェーン技術者たちの関心を引くことはできるだろうと考えているという。「技術的なスキルを持った人たちの間でも、このプロジェクトへの関心が高まっていると感じています。ただ現時点では、彼らはそのスキルを正しい目的で使えるのか吟味している状況でしょう」とオップ氏は見ている。「誰もが、世界の飢餓問題をなんとかしたいと思っている。それを解決しようというのは、朝起きて仕事に行くのには、十分にいい動機になるでしょう」