シリア難民支援で最先端のブロックチェーンが使われている深い理由

評価の定着を待ってはいられないから
エミリー・パーカー, LONGHASH プロフィール

それは、本当にブロックチェーンなのか?

一方で、このプロジェクトには批判もある。一部の人々は、この試みは実はブロックチェーンとは関係なく、単なる「データベース崇拝」に過ぎないという指摘している。確かに、ブロックチェーンという言葉は、過剰に持ち上げられ、さまざまな場面で不用意に使われてきたことは事実だ。そこで筆者は、WFPで「Building Block」を立ち上げ、現在は現地ヨルダンで活動しているWFPの支援提供アドバイザー、ホウマン・ハダッド氏を取材した。

 

ハダッド氏は、WFPのブロックチェーンは、ビットコインのように誰もがアクセスできるオープンなものではないと説明する。その代わり、WFPは非公開型のブロックチェーンを作って、4つのノードで分散管理している。この4つのノードはすべてWFPがコントロールしている。

ハダッド氏は、たった4つのノードではあっても、ハッキングされたり削除される可能性がある中央集権的な1つのデータベースよりも、多少なり耐性を高められると話す。だが同時に、彼はWFPのプロジェクトが、ブロックチェーンの特徴である改ざんの不可能性を完全に活用できているとは言えないこと認めた。「現時点では、ノードは4つとも我々が管理しています。これは、我々がやろうと思えば、履歴を変えることもできてしまうことを意味しているのです」

ハダッド氏はまた、現在WFPがやっていることは、単一のデータベースを使っても実現できることではあると認めた。ただ、だからといってこの技術がブロックチェーンとはまったく別物だということにはならない。「我々が使っているのは、本格的なブロックチェーン技術だ」と彼は言う。それは、ブロックやハッシュ、公開・秘密鍵などを利用しているという意味においてだ。

ハダッド氏自身は、思想的にはオープンなブロックチェーンの考え方を支持するという。だが現実問題として、オープンなブロックチェーンであるイーサリアムをパキスタンで使おうとした際、WFPが管理するプライベート・ブロックチェーンのほうが、より早く、より安く構築できることに気づいたという。WFPは現在、イーサリアムのフォーク(システム上、分化した仮想通貨)を使っている。

「協調」と「自律」を可能にするブロックチェーン

こうしてみると、当然ながらある問いが浮かんでくる。WFPが単一のデータベースでも現在の目標を達成できるのなら、なぜわざわざ手間をかけてブロックチェーンを使うのか。ハダッド氏によれば、その理由はこのブロックチェーンが持つ今後のポテンシャルだ。このブロックチェーンは、さまざまな人道支援機関が協力する理想的な手段となり得るだけでなく、難民たち自身も、自分のデジタル化された個人情報を管理できるようになる可能性を秘めている。

現在、このブロックチェーンはWFPが運営しており、難民の金銭的な取引の履歴を蓄積していくことができる。だがやがては、他の人道支援組織が関与することになるかもしれない。たとえば、世界保健機関(WHO)ならば、そのブロックチェーンに難民の健康状態の記録を加えることができるだろう。国連児童基金(UNICEF)であれば教育の情報を、国連開発計画(UNDP)は労働許可を追加することができるかもしれない。

こうした試みも、中央集権的なデータベースを用いて実現することはできる。ただそうなれば、どの機関が管理者になるのかという政治的な問題が浮上するだろう。ブロックチェーンによる脱中央集権化によって、誰もがそのネットワークに協力することができ、そうした問題を回避できるとハダッド氏は説明する。

ただもっとも重要なことは、このようなブロックチェーンによって難民が自らのアイデンティを取り戻すことができるということだ。難民とはその定義の通り、ときに政治的な迫害から逃れてきた人たちを指す。つまるところ、個人が特定できるデータは、とくに慎重に扱われなければならないのだ。人によっては、どこの難民キャンプに入っているのか、また家族の誰と一緒にいるのかも、他人には知られたくないだろう。なかには自ら、書類の類を廃棄したことによって、結果的に身分を証明する手段を失ったという人々もいる。

ハダッド氏は、ヨルダンに逃げているシリア難民は基本的に銀行口座を開設できないし、ましてやクレジットなどの信用履歴もないと指摘する。彼は、ブロックチェーン技術によって、難民たちがどこにでも持ち運べ、誰も本人から奪うことができないデジタル上のアイデンティティを作れるようになる日が来ることを待ち望んでいる。

ハダッド氏は、シリアでの紛争がはじまってからというもの、ヨルダンでシリア人が生まれ、結婚し、教育を受けているのだと語る。「そうした人々の来歴は、いったいどうなってしまうのか?」と、彼は問いかける。

もし紛争が終結し、彼らがシリアに帰国することになったら、「すべてが失われてしまうのか? それとも、シリアにすべて持ち帰れるのか?」。ブロックチェーンなら、難民たちは金融取引の履歴を積み上げることができ、いつの日かローンを組んだり、新しいビジネスを立ち上げることも可能になるかもしれない。