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シリア難民支援で最先端のブロックチェーンが使われている深い理由

評価の定着を待ってはいられないから

「我々は銀行業界よりも先端を行っている」

「シリアを脱出してくる難民は、これまでに見たことのないほど深いトラウマを抱えている。こうした事態に終止符を打たなければならない」

2018年4月、米国のジェームズ・マティス国防長官はシリア難民について、こう語った。最近、米国と英国、そしてフランスが行なったシリアへの攻撃によって、シリア難民の窮状に再び注目が集まっている。ただ、米国が2018年に受け入れたシリア難民の数は、現時点までに、たったの11人だ

米国が門戸を閉じている一方、国連の世界食糧計画(WFP)は、ブロックチェーン技術を使って、シリア難民を助けるための革新的な取り組みに乗り出している。WFPによれば、この新しいテクノロジーを用いて、1年間でヨルダンにいる10万人以上のシリア難民に900万ドルを送ったという。2018年末までには、さらに40万人のシリア難民を支援する計画だ。

 

国連のような巨大な官僚組織が、ブロックチェーンのような流行りの、比較的評価の確立していないテクノロジーを、先頭に立って取り入れようとしていることは、少々意外な感もある。

「カンファレンスに参加して銀行関係者と話をすると、私たちが彼らと同じくらい先端を――ときには、彼らより先を行っていることに驚かされる」と、WFPの革新・変革マネジメント部のディレクター、ロバート・オップ氏は認める。とはいえ、WFPはブロックチェーン技術が、難民への援助を分配するのに効率的かつ安全で、費用対効果も高いという最終的な結論をすでに出しているのだ。「世界でもっとも弱い立場にあり、もっとも支援の緊急性が高い人々には、(ブロックチェーンのような新技術の評価が確立して)その恩恵を受けられるまで待っている時間はない」と、オップ氏は言う。

ブロックチェーンとは、端的に言えば、分散型の取引記録だ。もっとも有名なブロックチェーンは、デジタル通貨ビットコインに関連したものだろう。ビットコインのブロックチェーンは、いかなる中央集権的なサーバーにも保管されておらず、世界中のノード(コンピューター)によって検証される。そして、その透明性は、世界中の誰もが検証可能なほど高い。

このことは、ブロックチェーン技術を支える匿名性を担保しつつも、他者に気づかれずにブロックチェーンを改ざんすることを、ほぼ不可能にしている。これによって、世界中で莫大な資金を、銀行や政府の助けなく動かすことが可能になっている。言い換えれば、ブロックチェーンは「ミドルマン」(仲介者)を排除しているのだ。

虹彩認証で食料品を購入!?

シリア難民にとって、それはどんな意味を持つのだろうか。彼らが隣国ヨルダンに到着すると、国連難民高等弁務官(UNHCR)が彼らを登録し、生体情報をスキャンする。次にUNHCRは、WFPに誰が援助を必要としているのかを伝える。WFPは彼らのためにデジタルウォレット(電子財布)を作り、食費を分配するのだ。

難民が店舗に買い物に行くと、目の虹彩認証で食品の支払いをすることができる。取引が終わると、米や油などの商品をどれくらい買ったかや、ウォレットの残高が記載された小さなレシートを受け取ることになる。

興味深いのは、ここからだ。取引は、改ざん不可能な、十分に信頼できるブロックチェーンに記録される。そこには、過去の難民支援の例のような、仲介者は存在しない。これまでなら、WFPは地元の銀行に、受給者や支援金のリストを渡し、銀行が取引を管理し、店側にきちんと支払いがなされるよう確認を行っていた。しかしもう、そうした銀行や、その手数料は必要なくなったのだ。

WFPは、ブロックチェーンによって月に平均4万ドルの費用負担を軽減できるようになったという。大した金額ではないと思われるかもしれないが、限られた資金で活動している援助従事者とっては大きな意味を持つ。「1ドル1ドルを、食料を買うために難民の手に渡らせることができる。銀行の手数料とはちがって、それこそが渇望されていることだ」とオップ氏は指摘する。

だが「Building Blocks」(積み木)と呼ばれるこのブロックチェーン・プロジェクトは、コストカットだけが目的ではない。WFPは、もはや難民への資金や個人情報の記録を第三者に預ける必要がなくなった、とオップ氏は語る。「資金や個人情報を組織の外部に出すたびに、我々は相応のリスクを覚悟しなければならない」。しかしブロックチェーンならば、セキュリティとトレイサビリティ(追跡可能性)が担保され、不正行為を防ぐことができ、真に支援が必要な人たちに正しい金額が行き渡るよう保証してくれる。