ベトナムから中国へ…急増する「越境密航者」の実態

日本にもいずれ影響が…?
安田 峰俊 プロフィール

未来は日中間での労働者の奪い合い?

ところで、中国のベトナム人労働者問題は、実はあながち日本と無縁の話ではない。近年、日本に来る外国人技能実習生の出身国別人数はベトナム人が1位、逃亡して不法就労をおこなう実習生の人数もやはりベトナム人が1位。そして、実質的には就労目的の人が多く含まれている留学生も、出身国別で2位となっている。

筆者は昨年秋から日本国内のベトナム人労働者や技能実習生について取材をおこなうことが増えているが、ベトナム人の留学生については「8〜9割が就労目的」だという彼ら自身からの複数の証言を聞いている。

昨年末時点で、このように日本国内で事実上就労しているベトナム人労働者は約24万人。実際、近年はコンビニや居酒屋、建設現場などでベトナム人の労働者を目にする機会が増えた。

 

取材をおこなう限り、こうして就労目的で日本にやってくるベトナム人は、今回の記事で紹介した中国で不法就労をおこなうベトナム人の労働者たちと、出身地や社会階層の面でそれほど大きな違いはないようだ。

日本は少子高齢化が進むゆえに、中国は経済発展にともなう人件費の高騰ゆえに、それぞれ人手不足に直面しているのだが、両国ともに現時点までは単純労働への就労を目的とした外国人の受け入れを許可していない。ゆえに、日本では技能実習生や留学生として、中国では密航者として、ベトナム人の労働者が実質的な労働移民として働くようになっている。

広島市内で就労しているベトナム人留学生。2018年1月筆者撮影

ちなみに、ベトナム人が日本に技能実習生としてやってくる場合、出国前にブローカーに60万〜150万円程度を支払い、日本国内での月収は6〜12万円ほど。就労目的の留学生の場合は、ブローカーに60万〜100万円を支払い、日本国内のバイト(留学生の就労時間規定などは当然ながら無視する)の月収は12〜30万円である。

いっぽう、ベトナム人が中国で不法就労をおこなう場合、実際の月収はせいぜい2000〜3000元(約3.4万〜5.2万円)にとどまるはずだが、事前にブローカーに支払う金額は800〜3000元(約1.4万〜5.2万円)程度と格安で済む。問題は就労行為が「違法」である点だが、ベトナムに限らず発展途上国のローカルな社会ではこうした面での触法行為に対する心理的なハードルは低い。

おそらく、ベトナムの田舎の若者の視点で考えるなら、日本で技能実習生になることと比較して、中国での就労は現時点においてすらそれなりの競争力を持っているのではないかと思える。

今年4月、名古屋市内のベトナムフェスティバル会場で開かれていた技能実習生の相談窓口。中国と違って日本での就労は「合法」なのだが、労働環境は劣悪だ

中国では今後も人件費が上がり続けていく。また、現実主義的な中国政府は、将来的に国内の高齢化や労働力不足が一定の水準を越えた段階で、あっさりと移民受け入れ政策にゴーを出す可能性も充分にある。

今後、中国側で単純労働者の受け入れ体制が整備された場合には、日本との間で低賃金の単純労働力の熾烈な奪い合い合戦が起きるかもしれない。

現在、日本から3000キロ離れた中国・ベトナム国境で起きているディープな密航ニュースもまた、実は私たちの社会の未来とまったく無関係でもなさそうなのである。