ベトナムから中国へ…急増する「越境密航者」の実態

日本にもいずれ影響が…?

国境に壁。でも粗い

世界に冠たる某国は強大な経済力と広大な国土面積を誇っているが、ゆえに頭の痛い問題がある。それは国の南部に延々と伸びる陸路国境線を抱えていることだ。南の隣国との間には、一人あたりGDPにして4倍近い経済格差が存在する。そのため就労を目的に国境を越えてくる密航者や不法移民は跡を絶たず、麻薬の流入や密貿易も深刻である。

そこで現地の地方行政当局は近年になり、多額の資金を投じて国境に壁を築き、隣国からやってくる「悪いやつら」をブロックすることにした――。

さて、どこの国の話かおわかりであろうか? 答えはアメリカとメキシコ……ではなくて、なんと中華人民共和国とベトナムである。中国最南部の広西チワン族自治区にある東興市は2012年から2016年にかけて、1.5億元(約)を投じてベトナムとの国境地帯の川辺に12キロにわたり高さ4.5メートルの壁を建設したのであった。

 

もっとも、中国とベトナムの国境線は全長1400キロ以上もあるうえ、2010年になってようやく陸路国境線を確定したほど境い目がアヤフヤである。さらに西側にはベトナム以上に貧しいラオスとミャンマーも控えている。わずか12キロ程度の壁を築いて、人間の流入をブロックしようとしたところで、焼け石に水もいいところの話だ。

今年3月、中国国内で強制送還を控えたベトナム人不法就労者たち。中国のウェブニュース『新浪』(http://k.sina.com.cn/article_1726918143_66eeadff020009m5f.html)より

また、中越両国は1970年代に戦火を交え(中越戦争)、現在も南シナ海に領土紛争を抱えているとはいえ、一応は社会主義の兄弟。建前上では友好関係にある。ベトナム北部クアンニン省の国境都市・モンカイでは、ベトナム人ならば簡単な手続きをするだけで、3日間だけ国境の向こうの中国側・東興市内だけ滞在可能な辺境住民渡航証を発行してもらえる。

ところが、この資格を使って中国国内に入り、そのまま東興市を離れて不法就労してしまうベトナム人もかなりの数に上っているのだ。

密航、就労、高収入!

ベトナム人の密航者や不法滞在者の多くが目指すのは、広西チワン族自治区を抜けた先にある広東省である。同省はそれぞれ国内第3・第4の都市である広州と深センを抱える、中国国内でも有数の富裕な省で、都市部の建設現場や珠江デルタに集中する工場などは慢性的な人手不足に悩んでいる。

地理的に北京から遠いため当局の管理はユルく、気候や地理環境の面でもベトナムとの差は小さい。好条件は揃っている。

密航者や不法滞在者の絶対数が多いことで、摘発のニュースも広西・広東の両広地域でよく聞かれる。例えば今年3月には両広8都市で大規模な摘発作戦が実施され、中国人らの密航業者(蛇頭)18人と、ベトナム人と見られる不法滞在者126人が一網打尽となった。

以下、今年4月26日付け『中国青年報』WEB版の記事などに基づき、具体的なベトナム人密航者の素顔を紹介しておこう。

ベトナムはまだまだ貧しい。2015年2月、フエ市郊外で筆者撮影

例えば19歳のホンさん(仮名)はベトナム北部クアンニン省の国境都市・モンカイからバスで12時間かかる貧しい農村部の出身だ。

同じ村の人から、日本円換算で1.4万〜1.7万円程度の手数料をブローカーに支払うだけで、中国の広東省に出稼ぎに行くことができ、1年間で170万円以上という凄まじい高収入を稼げると聞いて、行ってみることにした(ちなみにベトナムの農村部では世帯年収が30万円程度の家庭も珍しくない)。