マライア・キャリー「双極性障害」告白から見える精神医学の風景

「病気の売り込み」とは何か?
美馬 達哉 プロフィール

もともとの「躁病」はかなり重症の状態を指していて、誰が見ても「これはおかしい」と感じる。古代のギリシャ・ローマ時代の記録を現代の精神科医が見ても「躁病(マニー)」ははっきり分かるとも言われるほどだ。

たとえば、先に紹介した北杜夫氏であれば、躁状態のときに急に映画を作りたいと思いついて投機に手を出し、1億円以上の借金を抱えたことがあるという。

それに比べて、マライアの場合だと、自分のキャリアに見合った仕事をしようとイライラしながら不眠不休で仕事を続けるのが「躁状態」の症状と診断されている。

私はあれっ?と思ったのだが、ここに違和感をもつ人は多いのではないか。

華やかなトップアーティストなのだから、仕事に熱中して徹夜し、一般人よりも多少ハイにはしゃぐぐらいがハリウッド流の「普通」に思えるからだ。

〔PHOTO〕gettyimages

躁状態の診断基準

現代の精神医学マニュアル(DSM-5)では、躁状態(躁病・軽躁病エピソード)はこう定義されている。

1. 自尊心の肥大や誇大
2. 睡眠しなくても大丈夫という感じ
3. しゃべり続けて止まらない
4. 次から次へいろんな考えがわいて出てくる
5. 注意散漫ですぐに気がそれる
6. 社会的活動、仕事、学業、セックスに過剰に熱中したり、焦燥感を感じたりする
7. トラブルになりやすい買い漁り、投資、セックスなどに後先考えずに熱中する

以上の症状の3つないし4つ以上が、いつもの行動とは違う程度で、少なくともほぼ4日間毎日続いたなら「軽躁状態」で、1週間以上続いてしかも妄想があったり入院が必要になったりするほど重ければ「躁状態」だという。

うつ状態に加えて、こうした躁状態があれば「双極性障害」と診断されるわけだ。

要するに入院するのが1型、通院で十分なのが2型ということなので、あまり科学的には思えない安易な分類の気もする。

 

それはさておき、実際には、マライアは、インタビューを見ると、うつ状態に加えて「軽躁状態」のある「双極性障害2型」と診断されているらしい。

一言でまとめれば、やる気が無くて落ち込んだうつ状態が続いたかと思うと、ちょっと元気になると自分の好きなことや趣味にだけ熱中する(軽躁状態)、その繰り返しである。

ここで、ははんと思う読者もいるかもしれない。

これはまさに、いわゆる「新型うつ病」として職場のメンタルヘルスで問題になっている症状だ。

実際のところ、双極性障害2型は「新型うつ病」のかなりの部分を占めていると思われている。ただ、この点は話せば長くなるので、ここでは突っ込まない。