サイコパス研究の第一人者であるカナダの犯罪心理学者ロバート・ヘアは、サイコパスの特徴を4つの因子に分けて記述している1。
それを簡単に説明すると、以下のようになる。
第1因子(対人因子):表面的魅力、虚言癖、尊大な自己意識、他者操作性
第2因子(感情因子):不安や良心の欠如、浅薄な感情、共感性欠如、冷淡性、残虐性
第3因子(生活様式因子):衝動性、刺激希求性、無責任、長期的目標の欠如
第4因子(反社会性因子):幼少期の問題行動、少年非行、多種多様な犯罪行動
これらの特徴の掛け合わせによって、さまざまなサイコパス像が浮かび上がる。
ヘアは、サイコパス傾向を測定するために、「サイコパス・チェックリスト」を開発している。
犯罪的なサイコパスは、そのチェックリストにおいて、どの因子も最高得点を取るような人々である。
一方、マイルド・サイコパスは、これらの特徴は満たしていても、ある程度「マイルド」に抑えられている。
身の周りに連続殺人鬼はいなくても、人当たりがよく魅力的で、行動力はあるが、感情が薄っぺらく、無責任で平気で嘘をついたり、人の気持ちを思いやることのできない人物については、多くの人に心当たりがあるのではないだろうか。
職場のサイコパス
企業や組織における「マイルド・サイコパス」の研究では、サイコパス上司のいる会社の場合、部下の離職率、うつ、モチベーションの低下が際立っていることが相次いで報告されている2。
ハラスメントに限ってみれば、サイコパス上司がいない会社では、ハラスメント発生率が58%だったのに対し、サイコパス上司がいる会社では93%だった。つまり、サイコパス上司は、必ずといっていいほどハラスメント行為に及ぶのである3。
イギリスの研究では、サイコパス上司のハラスメント行為による社会的損失は、年間35億ポンド(約5200億円)と見積もられている3。
こうした研究を受けて、企業内で「マイルド・サイコパス」を早期に見つけ、彼らを責任ある地位に就かせないようにする試みも広がっている。
ヘアらは、「ビジネス・スキャン」という企業版「サイコパス・チェックリスト」を開発し、これを採用する会社が増えている。
これまでリーダーシップに関しては、指導力、チームワーク、コミュニケーション能力、プレセン能力、対人能力など、そのプラスの側面について論じられることが多く、書店のビジネスコーナーに行けば、そのような書籍がたくさん並んでいる。
しかし、近年は、上述のようなリーダーシップの負の側面についても研究が進んできたというわけである。
「マイルド・サイコパス」が企業内の重要な位置に就いてしまえば、ハラスメント行為にとどまらず、横領、情報漏洩などに手を染める恐れも大きいし、粉飾決算、談合、製品偽装、検査偽装などの企業犯罪に主導的に加担することもある。
彼らは表面的には魅力的で、コミュニケーション能力に優れているうえ、不安がないので、思い切りがよく卓抜した行動力や実行力を見せることがあり、そのために誤ってリーダーに選ばれやすい。
事実、職場で指導的地位にいる者の4人に1人は、「マイルド・サイコパス」の基準に当てはまるという研究もある4。
企業のトップ、政治家、科学者、芸術家などにも、「マイルド・サイコパス」が多く、彼らはまた「成功したサイコパス」とも呼ばれている。
サイコパスはパーソナリティの問題であるが、知能や他の能力が優れていれば、社会的な成功を収めることも可能だからである。
先ごろ行われた南北会談で、北の指導者に対する印象がガラリと変わったと口々に述べる人がいて、「ノーベル平和賞か」などと言われている始末である。
しかし、「表面的な魅力」「優れたコミュニケーション能力」にまんまと騙されているような気がしないわけではない。