女編集者・花房麗子、オーストラリアで足を折る

Break my bone!

登山と駅伝をこよなく愛する編集者・花房麗子。「2019年10月以降、エアーズロックに登れなくなる」というニュースを聞いて、オーストラリアへと飛んだ。ところが、下山後に足を折るというアクシデントに見舞われて…。

遥かなるエアーズロック

オーストラリアにこんな小話があると聞いた。

ゴールドコーストはサーフィンの聖地。世界中から最高の波を目指してサーファーがやってくる。

だけど、ここはサメの生息地でもあって、毎年ひとりは犠牲になるサーファーが出る。

ある日、沿岸警備隊の警報が鳴り響き、沖へと向かった。不幸なサーファーが、サメに襲われたのだ。残念ながら、そのサーファーは海の中へと引きずりこまれたままだという。

ビビりまくる日本人サーファー。ところが、それを聞いてオーストラリア人は、続々とサーフボードを抱えて海に向かった。

「何やってるんだい!  今、サメに襲われたって、聞いたろう?」

「だから、行くんじゃないか。サメは今年の分は今、食っちゃったんだからさ。今が一番安全なんじゃないの?」

 

さて、私が今いるのは、オーストラリア中央部。アリス・スプリングス病院のベッドの上だ。ゴールドコーストからではなくって、もう一つの同国を代表する聖地、エアーズロックを下山後に骨折し、病院へと搬送された。

オーストラリアを象徴する景色といえば、この 朝焼けの空に紅く映える巨大な一枚岩、エアーズロックを頭に思い浮かべる人も多いはずだ。

昨年(2017年)11月1日、同地を管理する「ウルル・カタジュタ国立公園」が、2019年10月26日以降の登山を禁止する、と発表し、日本でもニュースになった。と、するとこの赤い岩の上に立って広大なオーストラリアの大地を見晴るかすことができるのは、あと1年半ほどしかない。

現地に来るまで英語に疎い日本人(=私)は、その名をてっきりair’s rockなのかと思っていたが、1873年にオーストラリア大陸を探検してこの岩を発見したウィリアム・ゴスが、探検行のスポンサーだったヘンリー・エアーズ( Henry Ayers)にちなんで命名したのだという。

その岩はずっとオーストラリア政府の管理下に置かれてきた。だが、本来、この岩の麓では1万年以上先住民(アボリジニ)が暮らしている。彼らはこの岩をもっと上品なウルル(URULU=地球のヘソ)という言葉で呼ぶ。

近年、先住民の権利に対する意識が高まり、1985年、忖度岩ことウルルはアナング族(同地一帯に住むアボリジニの一部族)に返還された上で、オーストラリア政府が貸与してもらう形となった。1987年には世界遺産にも指定され、世界中の観光客がやってくるようになった。

ウルルに行くには、基本的にはアナング族の敷地内のエアーズロックリゾートに泊まって国立公園の入園料を支払う。これらは「大家」であるアナング族のメイン収入となってきた。

その地球のヘソを管理する「ウルル・カタジュダ国立公園」が、2019年10月26日以降の登山を禁止する、と発表。これらはアボリジニの部族たちからなる評議会で決められたことであって、じつをいうと彼らは何十年という間の長きにわたって「聖地であるウルルに登らないでほしい」と言い続けていたという。

ただ、その声の中には、登山を禁止したら観光人数が減ってしまうのではという、不安もあったらしく、何度も浮上しては立ち消えになってきた。ついにその話にも決着がつき、来年10月からウルルの山頂は人の立ち入らない場所となる。ちなみに2019年10月26日はウルルがアボリジニの手に戻って34年目の節目の日である。

観光客には登ってほしくない、という気持ちをもつアボリジニもいることを思うと、複雑な気持ちになるのだが、今しか行けないエアーズロック、行くしかないと思い立った。

同じようなことを思う日本人は多いらしく、日本人旅行者はこの期限が発表されて以後、増加中だという。私が現地入りしたのはゴールデンウィーク直前だったが、現地の日本語ツアーはすでに大型観光バスに満員の状態だった。ゴールデンウィークにはこの倍以上が参加すると聞く。

私の身に起こったことを一言で言うと、エアーズロック登山に成功! そしてシャトルバス出発までの余った時間で、エアーズロック周囲の遊歩道を自転車で散策中、砂に足をとられて転倒、左足首の骨を折った。複雑骨折だ。

これからますます増えるはずのエアーズロックを目指す方たちにぜひ、私のまぬけな体験をお伝えしたい。まぬけではあるが、きっと役立つはずだ。イテテ。

ハエ、ハエ、ハエ

エアーズロックは、オーストラリア有数の観光地だが、中央部の砂漠のど真ん中にあるため、各都市からのアクセスはあまりよくない。エアーズロック空港はメルボルン、シドニーなどと各1日1便ぐらいで結ばれていて、日本から行くなら絶対に現地到着は午後になる。空港からシャトルバスで「エアーズロックリゾート」(以下リゾート)というエリアに運ばれる。

ここは4軒のホテルと有料キャンプ場からなり、それぞれのホテルがリゾートシャトルで繋がれているが、ここ以外の宿泊選択肢はない。もっとも隔絶されたリゾートなだけに、敷地内にはスーパーマーケットもあるし、お土産屋もあれば、現地先住民であるアボリジニアートの美術館などもあってそこそこ楽しめる。

エアーズロックは、オーストラリア国内では基本的には登るところではなくて、その景観を眺めて楽しむところとされている。私もシドニー在住の友人にエアーズロック「登山」に行くと話したら、あまりいい顔をされなかった。長野善光寺にやってきた外国人が御守を買ったらいきなり紐を引きちぎって中身の札を見た(一般論です)、みたいな感じが一番近いと思う。観光ツアーも組まれているとはいえ、やはりちょっと複雑な気持ちになる。

さて、リゾートに到着した世界中からの観光客は、夕陽に染まるエアーズロックの遠景を眺めながら屋外バーベキューを楽しむサンセットツアーに出る。だが、この時、エアーズロック最大の問題に早くも悩まされることになる。

ハエである。

もう一度いう。ものすごーーーーーーーーーーーーい量のハエがいるのだ、ここには。

現地ツアーのガイドYさんによれば、冬に向かうに連れてハエは減っていくというが、日が昇ってから沈むまでは、日本の感覚ではありえないぐらいの量が周囲にまとわりつく。

どれぐらい凄いかというと、もう慣れましたと言っている日本人現地ガイドのヨースケさんが、エアーズロックについての説明をしているときに口の中にハエが飛び込んでゲホゲホと咳き込むぐらい凄い。

ガイドさんのバッグにもハエがびっしり…

準備怠りなかった私は、日本でエアーズロック体験をネット検索して、ハエが多いことは事前情報として入手していた。日本でも6月の山歩きではブヨや蚊に悩まされたことがあり、そうした時に役立つネット付き帽子を予め持って行っていた(来てみたら、土産屋で19.5ドルで売っていたが)。観光客の多くはこれを被って観光することになる。

サンセットを楽しみ、意外と量の少ないオージービーフに舌鼓を打ってオーストラリアワイン(美味!)を堪能したら、バスに乗って宿に戻る。明日は早い。これが日本人にとっての大本命、エアーズロック登山のできるサンライズツアーだ。