ソウル市内の冷麺専門店「乙密台(ウルミルデ)」。元々、人気店ではあるが、4月27日のランチタイムは予約が殺到し、電話が一時、つながらなくなったという。
この日は南北朝鮮をまたぐ板門店で、南北首脳会談が行われた。北朝鮮の金正恩委員長は会談のテーブルに着くやいなや、「平壌から苦労して玉流館(オンルュグァン)の冷麺を持ってきた」と発言。玉流館とは平壌の冷麺店で、韓国でも広く知られている。
時間は午前10時過ぎ。初夏のような陽気だったその日、生中継を見ながら「ランチに冷麺」と思った人が少なくなかったのだろう。この日、Twitterでは韓国語検索ワードに「平壌冷麺」が一時、トップにあがっていた。
冷麺は北朝鮮から来た玉流館のシェフらによって夕食会の場で提供されたのだが、これは韓国側からの要請によるものだった。4月1日に訪朝した韓国のKPOPアイドルのレッドベルベットや演歌歌手のチョ・ヨンビルが平壌で公演を行い、玉流館で食事をする姿が報じられ、韓国では平壌冷麺が話題の的だったからだ。
日本でも繰り返し報道された文在寅大統領と金正恩委員長が手をつなぎ板門店の境界線を越える映像と共に「冷麺」は、世論に好印象を与えるのに大成功の”演出”となった。
文在寅大統領は就任直後から、親近感をアピールすることで人気を集めてきた。
青瓦台の秘書官たちでさえ顔を見るのも難しかったという朴槿恵(パク・クネ)前大統領とは異なり、青瓦台の職員の使う食堂でランチをとったり、路上で支持者と握手をしたり、国家行事の場で人が押し寄せても笑顔で応じてきた。文在寅大統領の「格式ばらない親近感」は今回の首脳会談で金正恩委員長のイメージをも変えた。
首脳会談の一部始終は世界中に生中継された。1対1の対談も部屋の中ではなく、屋外の東屋で行われた。マイクが入っていないため、実際には密室と変わらないのだが、姿が見えるだけでオープンなイメージをアピールできる。
第1、2回目の首脳会談では故・金正日(キム・ジョンイル)総書記が思いのほか、ざっくばらんと話をし、ときにジョークを交える姿に世界が注目した。金正恩委員長も同様にオープンな態度を打ち出してくることを、韓国側は想像していたのであろう。そこを最大限に生かしたように見えた。
一方、韓国だけでなく、日本や世界のメディアでは、平和ムードに賛成しながらも「果たして北朝鮮は本当に核を放棄する気があるのか」という論調も少なくない。