ロンドンの舞台に近づけるため、劇場を改装までしたニューヨークのリリックシアター

生で観る『19年後のハリー・ポッター』「売れる理由」はここだった

本も映画もアトラクションも、そして…

2018年5月1日、2018年度のトニー賞のノミネート作品が発表された。トニー賞とはNYブロードウェイで上演されたミュージカルや演劇に与えられる賞で、映画でいうアカデミー賞にあたる最大の権威がある賞だ。

そこで最も注目を浴びたのは、作品賞をはじめとした新作演劇部門の最多10部門にノミネートされた『ハリー・ポッター』だった。

 

演劇の賞でハリー・ポッター?

世界で歴代3位のシリーズ興行収入85億ドル(860億円前後)をたたき出した「ハリー・ポッター」シリーズの映画は、7話で終わっている。「これがシリーズの最後の映画」「もうハリー・ポッターの小説は書かない」ことは、著者のJ.K.ローリング本人も、版元であるイギリスのブルームバリー社も断言している。

この、終わったはずのシリーズの「続きの話」が、今回ノミネートされた舞台『ハリー・ポッターと呪いの子(原題:HARRY POTTER AND THE CURSED CHILD)』なのだ。

まずは簡単に舞台となっている物語の背景を説明しよう。まだご覧になっていない方には、映画7話のラストの内容に触れることをお許しいただきたい。

これが映画の最終話

映画の7話『ハリーポッターと死の秘宝』のラスト、キングス・クロス駅9と4分の3番ホームでのワンシーンを覚えている人は多いだろう。「19年後」とタイトルが出た後、ハリーが入学のためにホグワーツに向かう息子アルバスと話すシーンだ。ホグワーツ魔法学校で父と敵対していた寮、スリザリンに入ることになったらどうしよう、と11歳の息子が心中を明かすシーン。ハリーは息子にこう言う。

「アルバス・セブルス・ポッター、ホグワーツの二人の校長からもらった名前だ。一人はスリザリン、父さんが知ってる人の中でも、おそらく一番勇気のある人だった。(もしスリザリンになったら)スリザリンは素晴らしい生徒を一人獲得したってことだ」

映画はこのシーンで終わる。そして舞台の物語は、そのシーンから始まっている。つまり、舞台は完全なる「続きの物語」なのだ。有名すぎる父を持ち悩めるアルバスと、そんな子供とどう接したらいいか迷う父・ハリーを中心に新しい物語が展開しつつ、過去にさかのぼってもいく。

ちなみにこの「続きの物語」『ハリー・ポッターと呪いの子』は脚本のみの出版になっているが、アメリカとカナダで2日で200万部を売り上げたのをはじめ、脚本として異例の売り上げを記録している。

『ハリー・ポッターと呪いの子』脚本発売前日には、世界各地でイベントが開催された Photo by Getty Images
『ハリー・ポッターと呪いの子』発売日はもちろんコスプレ姿が続々 Photo by Getty Images

舞台化だからこそ許された「続編」

2013年に立ちあがった「ハリー・ポッター舞台化計画」に基づき、J.K.ローリングに加え、脚本家のジャック・ソーンと脚本家で演出家のジョン・ティファニーと3人で脚本チームが作られた。そこから書かれたのが『ハリー・ポッターと呪いの子』の脚本だった。

「続編は書かない」と明言していたローリングだが、「本や映画の焼き直しではなく、ミュージカルでもないきちんとした物語の舞台を作りたい」というプロデューサーたちの熱意とアイデアに賛同。2016年7月、作品の生まれ故郷であるイギリス・ロンドンでその舞台の幕があがった。ロンドンでの評価は新聞の評もすべて5つ星。イギリスでのトニー賞にあたるオリヴィエ賞を、作品賞はじめ11部門でノミネートの上9部門受賞し、いまもロングラン公演を続けている。

「舞台上演がさかんなロンドンでも、『レ・ミゼラブル』のように30年続いているミュージカルはあるにせよ、ストレート・プレイ(演劇)の舞台が1年間、しかも同じキャストで続くことはほとんどありません

ロンドンに18年住んでおり、年間130本はミュージカルや演劇などの舞台を見ているという通訳者の河井麻祐子さんは言う。