「3億円借金」を超えて成功した僕が、20年前の自分に伝えたいこと

成功の、その先へいく秘密
水野 俊哉 プロフィール

人生は「成功して終わり」ではない

 一方で、僕が初めて起業した20年前に比べると、世の中もビジネスの価値観も大きく変わった。20年前は「とにかく会社を大きく成長させる」のが正義だったが、今では会社を大きくする以上に大切なことがあると実感することも多い。

『大富豪の教え』で、最終章に「成功の先へ」と題した一章を設けたのも、そうした理由からだ。人生は「成功すれば終わり」ではない

 橘青年は神宮寺の教えを忠実に守り、晴れて独立起業を果たす。そんな橘にぜひ読ませたい名著が、『全裸監督 村西とおる伝』(本橋信宏/太田出版)だ。「AVの帝王」として名高い村西とおる監督の評伝の決定版である。

有名な話だが、村西監督はAV界で一世を風靡する以前に、すでに大きな成功を収めていた人だ。百科事典のセールスマンとして日本一になり、さらにはビニ本チェーンの「北大神田書店」を立ち上げ、全国48店舗を展開するまでに成長させている。

しかし、本書の真の読みどころは、AV業界で頂点に上り詰めたのち、通信衛星放送事業への投資に失敗して50億円の借金を抱え、世の中から消えていた時代のエピソードだ。

周りの人間が蜘蛛の子を散らすようにいなくなるなか、ただひとり側に残った女優と結婚し、子供をもうけ、四畳半一間で借金取りに追われながら親子3人で暮らす日々。あるときなどは借金取りにダムに連れていかれ「返済はいいからここで飛び降りてくれ」と凄まれるなど、強烈なエピソードが満載である(そのピンチを、村西監督お馴染みの「応酬話法」で切り抜けるあたりも痛快だ)。

 

 この一番厳しい時期に育った息子さんは「お父さんは漁師だ」と思っていたらしい。よく一緒に行った伊豆の海で父は素潜りでたこや魚を捕まえてみせてくれた。

そんな状況下で息子さんは超名門私立小学校に合格するのである。面接では「あなたは将来何になりたいですか?」という質問に「僕は漁師になりたい」と息子が答えたという。大好きな父と同じ仕事がしたかったからだ。
 
2001年早春―――。お受験界に衝撃が走った。最難関の名門私立小学校に合格した60名の男の子の中に、AVの帝王と呼ばれ、借金50億円を背負った男の息子が入ったというのだ。(「全裸監督」p592より)
 
「這いつくばっての人生にも意味がある」という村西監督の名言があるが、そういう状況が最高の教育になったという可能性もあり得る。

ちなみに、息子の慶應入りを村西監督はしばらく秘密にしていたらしい。最後に残った家族だけはさらしものにしたくないという矜持があったようだ。
 
この本と対照的なのが、最近出たもう一冊の傑作評伝『江副浩正』(馬場マコト、土屋洋/日経BP社)である。リクルートの創業者である江副氏は、戦後最大の起業家のひとりであり、氏の著書である『リクルートのDNA』は、この20年間に出版された数多くのビジネス書のなかでも頭ひとつ抜けた存在だ。しかし、この評伝で明かされる「リクルート事件」以降の江副氏の後半生は厳しいもので、とりわけ私生活ではつらい目にあっていた部分もあるようだ。

リクルートを立ち上げ、情報産業を世に根づかせた江副氏の業績は未だまったく色あせることはないし、最も尊敬する経営者でもある。

人間、成功/失敗を超えたところに「大切なもの」を持っているかどうかで、逆境の受け止め方も180度変わってくるのではないだろうか。成功の光と影を感じさせる2冊である。