「出世を諦めた女性」は"悪"なのか〜女性登用が生む根深いジレンマ

こうして彼女は管理職を「拒絶」した
奥田 祥子 プロフィール

管理職がイヤなわけではない

今回はスキル・経験不足による自信のなさや、管理職登用による長時間労働への不安から、課長職への昇進を断り、マミートラックから降りていないAさんだが、将来的に指導的地位に就いて能力を発揮していくことを決して諦めたわけではない。2018年4月、改めて彼女にこう問うてみた。

さらに実績を積んで自信をつけ、長時間労働が完全に是正されたら、管理職を引き受けますか――。

「本当にそうなれば、いいかもしれませんね」

控えめな言葉ながら、表情は明るく、すがすがしい。Aさんは第2子が小学校に入学した1年前から、所属部署で役立つマーケティングの資格取得のために通信講座で勉強を始めたという。

彼女の口から、資格取得のための勉強は「管理職に就くため」という言葉は出なかったが、マミートラックからいずれ出るものと考えたうえで、その先をしっかりと見据え、今は跳躍のその時に備えた「助走」をしている段階なのではないか。16年間取材者として彼女の悩みや苦悩に寄り添ってきた身として、そう直感した。

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取材した事例の中には、マミートラックに乗ったことが逆にキャリアアップにつながったケースもある。マミートラックの中にいる間にそれまで経験したことのない職務と出会い、そこで新たな自身の能力を開発して磨き、昇進した女性たちだ。

ある女性は、出産前は営業職で活発に取引先を回っていたが、子育てと両立させるため、上司と話し合ったうえで内勤職場に異動した。そこで販売促進計画を作り上げるスキルと経験を積み、実績が評価されて課長職に抜擢された。

またほかの女性は、職場復帰後しばらくしてから、もといた宣伝部から人事部内に新設された女性登用を進めるための部署に配属された。自分と同様に子育てと両立する女性社員の声をくみ上げ、人材育成や人事評価などに生かす方策を次々と提案したことが認められ、今は課長補佐職を務めている。

 

「数合わせ登用」のジレンマ

自分たちの生き方に、子育てしながら働き、さらに管理職に就いて活躍する、というひとつの規範を押しつけようとする世の潮流に、働く女性も、家事・育児に専念する女性も、様々な人生を歩む多くが憤っている姿を目の当たりにしてきた。

2016年4月、大企業などに女性管理職の数値目標などを盛り込んだ行動計画の策定・公表を義務づけた「女性活躍推進法(女性の職業生活における活躍の推進に関する法律)」が施行された。

政府は指導的地位に女性が占める割合を2020年までに少なくとも30%程度に増やす目標を掲げているが、現状では、課長相当職以上の女性管理職比率は12.1%(厚生労働省の2016年度「雇用均等基本調査」)にとどまり、女性登用は思うように進んでいない。

働く女性の中で、正社員は少数派(44.5%、2017年値)だ。新卒採用数が少なかったうえに、出産を機に退職した者も多いことから、今管理職となるべき年代の女性のパイが小さいことが登用実績に現れている面も確かにある。

しかしながら、正社員でかつ管理職昇進の貴重なチャンスが巡ってきたにもかかわらず、自ら昇進を拒む女性たちが続出している。こうした管理職になりたがらない女性の増加が、登用を進めていくうえで大きなネックとなっている。こうした女性たちと、出産後にマミートラックに入った女性たちは大部分で重なっているのである。