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「出世を諦めた女性」は"悪"なのか〜女性登用が生む根深いジレンマ

こうして彼女は管理職を「拒絶」した

「産め、働け、活躍しろ、って無茶ぶりされてたまったもんじゃない!十分な経験も積ませてもらえていないのに、数値目標を達成しなければならないからって、いきなり管理職になんて調子が良すぎますよ」

Aさん(41歳)の取材を始めて15年がたった2017年の春、小学生2人の子どもを育てながら、流通業で総合職として働いている彼女は、課長職への昇進を拒んだ理由を頬を紅潮させながら説明し、これまで見せたことのない大きな怒りをあらわにした。

そして、複雑な心境をこう明かした。

「育休から復帰後に補助的な仕事しか任されなかった時は、マミートラックに塩漬けされていることが悔しかったし、働く意欲もなくなってしまった。でも今は、自分から進んでそのトラックの中にいるんです。周りは脱落者と見るかもしれないけれど、私は無理せず家庭と仕事を両立させながら、のろくても一歩一歩前進しているつもりです」

 

「マミートラック」とは、出産後の女性の職務内容が限定され、昇進とは縁遠いキャリアコースに固定されてしまうことを指す。

「トラック」は陸上競技場の走路のことで、一度ここに入ると同じところを回り続けて抜け出せないという意味合いがある。つまり、マミートラックにはネガティブなニュアンスが込められており、子育てしながら働いている女性が抱えるキャリア形成上の問題点として、専門家の間でもこのキャリアコースを批判的に見る向きは多い。

だが、マミートラックは、女性への両立支援の延長線上にある「配慮」であると企業から説明されれば真っ向から反論するのは難しいし、女性自身が希望している場合も少なくなく、一方的に企業側の問題として片づけるべきではない。

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出世を諦める女性たち

確かに、マミートラックに入る女性の中には、不本意ながら就業を継続するうちに、働くモチベーションが低下してしまうケースもある。

しかしながら、重要な仕事をこなして実績を上げたいが、子育ては母親である自身が担うべき役割だから仕方がない――などとジレンマと深い葛藤を抱えた末に、自らマミートラックに乗ることを選択し、努めて前向きに受け入れているケースのほうが多いことを取材を通して実感してきた。

そうして、「女性活躍」の推進が声高に叫ばれるなか、女性がマミートラックを希望する、言い換えれば出世を諦めることを良しとしない世間の目が、当事者たちをなおいっそう苦しめているのだ。

マミートラックをネガティブに捉える必要はない。子育てをしながら、出産前と同様の仕事量をこなすのが難しくなるのは当然だ。育児との両立による時短勤務や残業免除で仕事量が減れば、おのずと職務の質も低下してしまうのはやむを得ないのが現実なのである。

いまだ出産前に仕事をしていた女性の約5割が第1子出産後に辞職しているという状況下で、まずは、出産後も就業継続を希望する女性たちが子育てと両立させながら無理せずに働き続けられる環境を企業も行政も整備し、かつ本人自身が働く意欲を失わないことが重要なのではないか。

Aさんの事例に話を戻すと、2002年、26歳の時から取材を続け、もともと出世志向が強かった彼女も、31歳で第1子を出産し、育休から職場復帰してから、責任のある仕事やチームをまとめるリーダー的な役割が回ってこないことに働くモチベーションが低下していった。

職場復帰から1年を過ぎた頃には「会社を辞めたい」と漏らすなど、相当思い悩んでいた時期もあった。

だが、子どもたちのためにも「社会とつながり、働く母親の姿を見せたい」と辞職を思いとどまり、その後第2子を出産後も仕事を続けながらやりがいを模索していた。
そして、冒頭で紹介したように、突如として管理職登用のチャンスが訪れるのだ。