朝鮮半島の平和条約は「日本の不幸」になるという悲劇的な現実

隣に核経済大国ができることの意味とは
河東 哲夫 プロフィール

平和条約は北主導の統一をもたらす

これだけでも、事態は日本に十分不利なものだが、米朝首脳会談を契機にものごとが朝鮮戦争終結のための平和条約の締結という方向に転がりだすと、極東の地政学的枠組みは一大変化を起こし、日本はさらに難しい立場に追いやられるだろう。

今回の南北首脳会談では、両者は年末までに朝鮮戦争「終戦宣言」をするとの合意をしている。これは政治的なもので、平和条約のような法的効力を持たない

トランプがさらに踏み込んで、と言うか金正恩の口車に乗せられて、「北朝鮮がICBM開発を放棄するなら朝鮮戦争の平和条約を結ぶ用意がある、米国は北朝鮮の体制転覆を図る意志はない」と、でも言ったらどうなるか?

それが口先だけの誘い言葉で終わればいい。だが、ひょうたんから駒で、本当に平和条約を結ぶ方向にものごとが転がり出したら、それは当然「もう米軍がいる意味はない」ということで、在韓米軍の撤退につながっていくだろう。

 

韓国政府が「それはまずい。韓国が裸になってしまう」と思っても、文大統領の背後の「386世代」は朴正煕大統領の親米政権時代に投獄までされた経験を持つ反米の連中だ。彼らが声を上げて、米軍は出ていけという運動が韓国社会で高まるかもしれない。

米軍が撤退すると、韓国は次の日から素っ裸、自分だけで、北朝鮮、ロシア、中国からの圧力に対処しなければいけない。ロシアより大きいGDPを持っていると言っても、その多くは輸出で稼いでいるので、米国や中国との関係が悪くなると脆弱さをさらけ出す。

そうなれば、韓国は北朝鮮との連携を強めようとするだろう。北朝鮮の金正恩も20日の労働党第7期3次全員会議で、今後は経済建設を政策の主軸にすると言っているので、連携が一度始まると、それは深度をどんどん深めていくだろう。

ドイツ再統一の場合、西独はNATOを後ろ盾に、ゴルバチョフに捨てられていた東独を上から目線で実質的に吸収合併してしまった。西独は、その代わり、東独が低賃金国として搾取されるようなことがないよう、東独のマルクを西独のマルクと等価として扱い、その結果、大きな財政負担を背負い込んだ。

米軍撤退後の韓国は後ろ盾を持たない「弱虫の金持ち」だ。後ろ盾はむしろ、北朝鮮の方が持っている。だから韓国はカネをむしり取られやすいし、そうなるだろう。

韓国の民主主義社会は親米vs.向米、親北朝鮮vs.反北朝鮮、親中vs.反中等に分裂していて、腰が定まらない。日本については、反日の連中が声をあげると穏健な大多数の人たちは黙り込む構図だ。

となると、ドイツ再統一の時とは反対に、北朝鮮の方が再統一の過程でイニシャティブを取ることになるだろう。

「かつて日本支配に抵抗するパルチザン運動を行っていたのは北朝鮮の金日成、だから北朝鮮の方が本当の朝鮮国家であり、韓国はそれに対して米国が擁立した傀儡国家に過ぎない」というコンプレックスが韓国の年長層にはあるようなので、北朝鮮がイニシャティブを取れば韓国では案外通ってしまうだろう。

そうやって誕生するのは、核兵器と中距離ミサイルを持ち、かつロシア以上のGDPを有する経済・軍事大国なのだ。

今の日本政府の対応を見ていると、トランプや文在寅両大統領に拉致問題での口利きを頼んだり、文在寅大統領に金正恩委員長との会談アレンジを頼んだりしているが、それは朝鮮半島での冷戦構造が続いていることを前提にしたものだろう。

しかし上記のように、極東の地政学的枠組みは流動化の気配を見せており、そのようなことを頼むのは、少し時代遅れ、かつお人好しの感がする。

―東海(韓国の言う日本海のことではない)の小島の磯の白砂に、われ泣きぬれて蟹とたはむる―というようなことにならないよう、願いたい。