朝鮮半島の平和条約は「日本の不幸」になるという悲劇的な現実

隣に核経済大国ができることの意味とは
河東 哲夫 プロフィール

振り回される中国の事情

周辺国は、朝鮮半島に対してどのような目論見を持っているか。

まず北朝鮮と政治的・経済的・軍事的に最も大きな関係を持つ中国だが、中国にとっての基本的なニーズは、「北朝鮮がおとなしくして問題を起こさないでいてくれること」に尽きるだろう。

古代、今の北朝鮮に相当する位置にあった高句麗の時代には、唐王朝が挑戦的な高句麗を武力征圧したような時もあったが、今はそこまでいっていない。

むしろ、北朝鮮情勢が荒れて韓国軍・米軍が入ってくると、中国も出兵せざるを得ない。あるいは北朝鮮から難民が大量に入ってきて、国境の延辺朝鮮族自治州に集住する朝鮮系住民と一緒に自治要求を強められたら困る。中国東北部は、元々高句麗の故地でもあり、清朝時代から朝鮮民族が浸透していた。中国は、これらのことへの警戒心の方が強い。

 

今回は、韓国がトランプ大統領に水を向けたのがきっかけとなって、ものごとは、あれよ、あれよという間に、米朝首脳会談にまで行ってしまった。

中国は慌てたことだろう。それまで北朝鮮の扱いを中国に丸投げしていたトランプが、突然「もういい。中国は頼りにならないから自分でやる」とばかりに金正恩との会談を提案、他方では中国産品への関税引き上げ等、ビーンボールを投げてきたからだ。

絶対ないだろうと思っていた米朝首脳会談。このままでは中国は朝鮮情勢への発言権を失うばかりか、対米貿易交渉での取り引きの玉とするつもりだった北朝鮮を失ってしまう。

ところが金正恩の方も、トランプに会うとあっさり言われて、大いに怯えたことだろう。すっかり沈黙したまま、周到な準備を開始した。会ってトランプを怒らせるようなことがあれば、たまったものでない。

北のかつての後ろ盾だった、ロシアは極東で何もできないので、中国の後ろ盾が不可欠だ。

これまでは金正恩を嫌い、トランプに言われて制裁までしてくる中国に楯突いてきた。たが、ここは膝を屈してでも中国の支援を確保しておこう、中国しかない、ということで訪問を打診すると、中国も前記の事情があるから2つ返事で会おうとなった。金正恩を嫌う習近平は、苦虫が笑っているような顔をして彼を受け入れた。

この結果、北朝鮮は丸裸ではなく、中国という後見人が脇から見ている中で、トランプとの首脳会談に臨めることになった。つまり、南北首脳会談で韓国と北朝鮮の間が少し融けてきたにしても、北朝鮮・中国陣営と韓国・米国・日本陣営が対峙するという地政地図、極東のパラダイムはまだ変わっていない。

みんな日本などどうでもいい

米国はどうか?

トランプは、「何でもいいから、秋の中間選挙に勝てるような見栄えのする成果(実質は二の次だ)を出すこと」を至上目的とする。それは、米国にも届く北朝鮮の長距離ミサイルICBMの開発を停止させることに尽きよう。

その他のミサイル、核兵器は、米軍の「核の傘」で十分抑止できる。それにその程度の脅威を残しておいた方が、日本の対米依存を続けさせ、基地を引き続き確保できるだろうという計算が下僚にはあるだろう。

ロシアは、北朝鮮には随分貸しがある。2014年には100億ドル相当の債権を帳消しにしたし 、核・ミサイル工学分野での北朝鮮技術者、留学生をつい最近まで受け入れてきた。

しかし今回、金正恩は訪ロする構えを見せていない。ロシアはさして頼りにならないと見ているのだろうか。

米国の為にならないことなら何でもする、いつものロシアにしては解せない状況だが、いずれにしてもロシアは今回、日本と並んで端パイになっている。このままでいくと、北朝鮮問題が中ロの間に微妙なひびを入れることにさえなるかもしれない。

日本は、安倍総理が小泉政権で官房副長官を務めていた時、再び北朝鮮に返すという約束で日本に連れ帰った拉致被害者を、そのまま日本に留め置くという強硬な態度を取って、当時の北朝鮮との合意を反古にさせたことが手を縛り、みすみす孤立を招いている。

日本は米国の核の傘にますます依存する方向に追いやられ、かつ将来は中国、北朝鮮、韓国が手を組んで、日本に「謝罪」と「補償」を求めてくるという悪夢の情勢さえ招きかねない。

そうまでならずとも、核兵器、拉致問題を残したままの北朝鮮への経済援助を米国、韓国、そして中国から強要される事態は十分あり得る。