「体育会系体質がないと外科医には向かない」は本当か

覆面ドクターのないしょ話 第14話
佐々木 次郎 プロフィール

外科の技術と一緒にダジャレも継承する!?


師弟の執行猶予

話は冒頭に戻る。

外科における師弟の絆は強く、手術以外のことまで師匠に似てしまうことがある。

お世話になったA先生のことを思い出した。

以前勤務していた病院の外科には、通常の大病院にはびこっている学閥というものがいっさいなかった。東大の先生もいれば、地方の国立大学の人もいたし、私立医大出身の人もいた。まさに多国籍軍のような外科で楽しかった。

 

A先生は専門が血管外科だった。彼と私は気が合い、私は彼の手術の助手を何度も務めた。手術手技が教科書とは異なり、非常に独特だった。

「先生の術式はユニークですね?」
「ええ、よく異端だって言われます」

彼は手術中饒舌で、看護師に次々とダジャレを飛ばす。

「キシロカイン(麻酔薬)使いますよ」
「はい、今シリンジ(注射器)用意しまーす」
「あれ、シリンジにうまく吸えないな。すいません(吸いません)なんちゃって」
「先生、つまんない」
「つまらない? 僕のジョークがつまらないですって!? 血管の手術をしてるんだから、詰まってもらっちゃ困るんです。だからボクのジョークはつまらない(詰まらない)」

―――さむい……。

手術のときの苦労話も色々聞いた。

「あのケースではね、よかれと思ってやったのに上手くいかなくて、大いに悔やみました。まさにコロンブスですよ」
「コロンブス? ……その心は?」
「大航海時代(大後悔時代)です」

――うまいっ!

一応ほめてあげる。

プライベートではゴルフが好きで、週に1回はコースを回っていた。

「この間は絶不調でねぇ、100叩いちゃいました」
「先生にしては珍しいですね」
「まさに百叩きの刑です」

――古い……。

いっしょに酒も飲んだ。彼はビールをたくさん飲んで生理現象を催し、トイレに立った。

「ちょっとシッコユウヨ(執行猶予)」

――それも古いよ! でも懐かしいなぁ、そのダジャレ!

数年後、学会で血管に関する特別講演があった。その分野の権威とされているあの有名なB先生の講演だった。B先生は難しい話をわかりやすく説明してくださり、ときどき交えるジョークが聴衆を笑わせた。

「次の症例です。お恥ずかしながら、このケースは大変痛い目に遭った反省材料なのです。結果オーライだったものの、大きな悔いが残り、手術後の私の心境はまさにコロンブスでした」
「???」

聴衆が目を白黒させている。司会が質問する。

「B先生、その心は?」
「わからない? 大航海時代(大後悔時代)です」
(爆笑)
「あれ? そこに笑ってない人がいますねぇ。つまらなかった? はい、つまらなくていいんです。血管を手術したんですから、詰まったら困るんです」

――あれ? この話……。

私は何かを思い出そうとしたのだが、頭の中ではまだ糸がもつれたままだった。どこかで聞いたことがあるダジャレ……デジャビュか?

講演の後、懇親会があった。懇親会でもB先生は大人気だった。

「いや~、この間久しぶりにゴルフやったら、100叩いちゃって……まさに百叩きの刑」
(爆笑)

わかった! 韓流ドラマのように、最終局面で、もつれた糸が1本になり、2人のつながりに私はようやく気づいた。私は持っていたグラスをテーブルに置くと、そのままB先生に駆け寄った。

「B先生、○○病院のA先生は、もしかしてお弟子さんでしょうか?」
「そうです! A君は私の弟子です。外科の『いろは』から教えました」

師匠から手渡されるものは、知識と技術だけではない(photo by istock)

やはり2人は師弟だった。お互い遠くで仕事をしていても、師匠と弟子は今もつながっていた。懇親会でかなりビールを召し上ったB先生、生理現象を催されたらしい。

「皆さん、すみません。ちょっとシッコユウヨ!」

そんな古いダジャレまでいっしょとは……外科医の師弟の絆とは、かくも強いものなのである。