日本が性教育の「後進国」になりつつあるのをご存じですか

中学校で「性交」の語は使用禁止?
染矢 明日香 プロフィール

性教育とは逆に進む「性情報の日常化」

日本の子ども・若者たちが、正しい性の情報を与えられず、避妊などの知識も定着していない一方で、若者が触れる性情報の情報源を調査してみると、「友人」「インターネット」からの情報が多くを占めており、しかもインターネットの割合は年々増加しています。(日本性教育協会編『「若者の性」白書 第7回 青少年の性行動全国調査報告』(2013年)より)。

 

私自身も、中学校の生徒たちから、「SNSを使っていたらHなマンガの広告が出てきた」「友達同士のLINEグループでエロサイトのURLが送られてきた」といった声もよく聞きます。たとえ授業で「性交」「避妊」という言葉を使わなかったとしても、インターネットやスマートフォンが普及した今、中学生でも簡単に性情報を目にしたり、調べることができるのです。積極的に性への関心を持っていない子でも、自分が意図しないところで性情報に触れてしまったり、性的な関心を向けられることもあるでしょう。SNSを通した10代の性被害も年々増加しています。

「性教育で『性交』という言葉を使うと、寝た子を起こす」などという主張は、現実を見れば、ほとんどあり得ないものです。

(Photo by iStock)(Photo by iStock)

刑法では、「性行為に同意する能力がある」とみなされる年齢(性的同意年齢)は、13歳とされています。それならば、性行為の仕組みや影響について伝えるのも、同じ13歳頃からというのが、大人の側の責任であるように思わざるを得ません。

子どもたちが不正確なネットの情報を信じ込んだり、フィクションとして作られたAVを、リアルな性の手本と思い込んで学んでしまう前に、性行為がもたらすリスクや、その防ぎ方、性行為における同意の重要性や、パートナーとの対等な関係性を学ぶ機会が必要ではないのでしょうか。「AVを教科書にするな」「それは間違っている」とだけ大人が言ったとしても、では何が正しいのかを示さないのであれば、結局、誤った知識だけが子どもたちの中に吸収されていってしまいます。

読者の中には、「この筆者は、こんな当たり前のことを、なぜ今取り立てて主張しているのか」「正しい性の知識が必要なことなんて、当然じゃないのか」と思われた方も多いでしょう。実際、日本家族計画協会が2014年に実施した第7回「男女の生活と意識に関する調査」(有効回答数 1134 人、16歳~49歳男女対象)では、「性に関する事柄で15歳までに知るべきこと」として、「セックス(性交渉)」(71.9%)、「避妊」(60.7%)、「人工妊娠中絶」(74.0%)が多くの声を集めており、中学段階で性交について扱うことへの反対派はマジョリティではないようです。

しかし、現在の日本の性教育は、多くの人々の意識とは乖離した状況にあるのです。読者は、ご自身の感覚に照らして、どう感じるでしょうか? 自分の子どもが、中学校を卒業してなお、一度も「性交」という言葉を使って「避妊」の具体的な方法について習うこともなく、この現代の情報化社会に放り出されるとしたら、それは「素晴らしいこと」だと思いますか。それとも「恐ろしいこと」だと思いますか。

日本の性教育をアップグレードしよう

筆者が行っている性教育講演では、初めは恥ずかしがってニヤニヤしたり、そわそわしている中高生たちも、私が経験談を語り、性が人生に関わる大切なことだと伝える中で、次第に真剣な表情に変わっていきます。

子どもたちの知識は飛躍的に上がり、「聞けて良かった」という感想が9割近くにのぼっています。「知ることができてよかった」「もっと正しい知識を身に着けたい」という声が多く挙がります。子どもたち自身の中に、ニーズはあるのです。

また、地域が立ち上がった、自治体単位での性教育の成功事例もあります。秋田県では、県教育委員会と医師会が連携し、中高生向けの性教育を行った結果、それまで大きく全国平均を上回っていた10代の中絶率が、10年で大幅に下がりました。このような地域での成功事例から学び、もっと広げていく動きも必要でしょう。

「性教育は家庭でするべき」という考えもありますが、現実には、家庭環境に難しさがあったり、親に経済的・精神的な余裕がない家庭の子どもほど、家庭での居場所のなさなどから、より性のトラブルに巻き込まれやすい状況もあります。家庭環境に左右されず、義務教育課程の中で、すべての子どもが性について正しく学べる権利を保障することが大切だと思います。

子どもたちを守るために必要なのは、「性」を遠ざけることではなく、適切に性についての正しい知識を学ぶ機会です。2018年に再び湧き起こった「性教育バッシング」に直面した今こそ、私たち一般市民の側から、時代の流れや、10代の若者の実態に即した、本当に意味のある性教育を求めて、声を上げていくときではないでしょうか。

▼「中学生に健康と安全のための包括的な性の教育を!」オンライン署名キャンペーン
https://www.change.org/adachi-karada

▼あなたの性教育についての意見をぜひお聞かせください!
https://goo.gl/j8vUMQ

参考:教科書にみる世界の性教育(橋本紀子・池谷壽夫・田代美江子編著、かもがわ出版)
http://www.kamogawa.co.jp/kensaku/syoseki/ka/0947.html